天体望遠鏡で写真撮影をするときに、ピント確認に使う器具です。
横方向と、少し傾いたスリットを組み合わせたものを望遠鏡の対物レンズの前に置いて使います。パターンはこんな形です。
白いところをくりぬいて使用します。
マスクを取り付けて、カメラのファインダーやライブビューで確認すると、星から細い虹のような3本の線が見えます(右図)。
この筋が、星の位置で交わるようにピントを調節します。写真では真ん中の線がわずかに左にずれています。
カメラ側から見て上のように見えるようにマスクがセットされているとすると、ピントより前の位置にカメラがセットされていることになります。
虹のような線は、マスクにあるそれぞれのスリットが作る回折像です。スリットの溝の方向と直角方向にできます。
横方向にできているスリットで考えてみます。このスリットは望遠鏡視野の左側だけにあって右側にありません。
スリットを通りぬけてきた光はピントの前方では、回折像の位置は星よりも左側に偏っています。ピントの後方では逆に右側に偏ることになります。
ピントを前から後にずらすことによって回折像が左から右に移動していきます。
斜めのスリットも同じ現象を起こしますが、スリットの位置の中心からの偏りが少ないので、回折像の移動は少なくなります。
2つのスリットの作る回折像の傾きは同じで、それぞれが反対方向に動きます。
回折像のつくる「X」形は、ピント調節によって上下に動きます。見た感じではほとんどわかりません。
斜めにするスリットの角度は何度でもいいようです。傾きが小さいと狭まった「X」になりますし、大きいと幅が広がってきます。
30度程度だと、回折像にできる明るい点が等間隔になるのがわかりやすいので、この角度にしています。
溝の間隔が狭いと回折像が長くなり、広いと短くなります。望遠鏡(カメラレンズ)の焦点距離によって使いやすい間隔が違ってきます。
このあたりは、作ってようすを見るしかないでしょう。口径の大きなものを細かいスリット間隔で作るとなると工作時の強度も心配になってきます。
溝の間隔がそろっているときれいな虹になり、ばらばらだと色がぼやけてきます。
また、溝の線が曲がっていると線が太くなり、その分暗くなり、交点もわかりにくくなります。
乱雑にできていても大丈夫と書かれているサイトもあるし、正確に作らないといけないと書かれているサイトもあります。
少なくとも、使わない場合よりも早く正確にピント合わせができるので便利です。
望遠鏡に取り付けたようす
望遠鏡に取り付けるために、何かいい素材がないか探していたところ、CD−Rの円筒形容器の底の部分が望遠鏡フードにぴったりはまるので、
これを利用して作ってみました。定規が切り抜き部にぴったり当てられないので、ナイフがまっすぐ入らなく、線が曲がったりしています。
関係のないところに切れ目が入って補修した跡もついています。
写真のものは、かなり雑な造りのように見えます。これでも使わないよりかなり正確にピント合わせができるようになりました。
櫛を使って
普通のカメラレンズを使おうとすると、星は暗くてオートフォーカスでは焦点を合わせてくれないことがあります。
ライブビューを使っても、星の光で周囲が明るくなり、ある程度以上星の像は小さくなってくれません。
そこで、バーティノフマスクを使いたいところですが、単焦点レンズだと回折像が短くて確認することができません。
回折像を伸ばすにはスリットの間隔を短くすればいいのですが、工作が困難になってきます。
そこで、細かく等間隔で切れ目の入ったものがないかと探してみたところ、櫛の歯に思い当たりました。
ホテルでアメニティとして出される櫛を使ってつくってみました。
リング状のものにホットボンドで固定しています。
使ってみたところ、ライブビューと組み合わせて、200mm(35mm換算)程度以上の長望遠レンズで回折像を確認することができました。
フィルムに印刷
スリットを作ればいいということから次に発想したのは、透明なフィルムに等間隔で線を印刷することでした。
とりあえず、レーザープリンターで印刷できそうな透明フィルムを買ってきて作ってみました。
印刷ソフトと使用できるプリンターの関係で線の間隔は0.5mmになりました。
作ったものでは、100mm(35mm換算)程度の中望遠レンズ以上で使えそうでした。
フィルムの平面性と、印刷パターンの耐久性に問題があるようです。
紙に印刷したものをフィルムカメラで撮影して、そのフィルムから作ってみました(右写真)。
白黒ネガかリバーサルフィルムのどちらでもできます。写真用フィルムは製造中止が相次いでいますので、そのうち入手できなくなるかも知れません。
※ ネガフィルムは色がつくものが多いようです。気になるのならリバーサルフィルムを使うしかないでしょう。
左側が撮影したリバーサルフィルム、右側がカメラフィルターの枠に組み込んだものです。
作る上での注意点としては、中心の位置を正確に合わせるようにすることです。
たとえば焦点距離18mmF値4のレンズを用いたとします。
このレンズの有効径は焦点距離÷F値ですから4.5mmになります。
これだと、中心の位置がその半分の2.25mmずれていただけで、必要なマスクのパターンがレンズからはみ出してしまうことになります。
この場合撮影範囲内のどこかでチェックできる場所があるかも知れませんが、その場所を探すのは大変です。
そこに干渉パターンの見える明るい星があるとは限りません。
※ 逆に言えば、パターンはそんなに大きくなくても大丈夫だということです。
試していませんが、1枚のフィルムに繰り返したパターンを組み込むこともできそうです。
撮影用に印刷した紙には中心位置を示すマークをつけておきましよう。レンズの前で動かないようにカメラフィルターのような枠に取り付ける事も大事です。
作ったものを、焦点距離18mmのカメラに取り付けて試したところ、ライブビューの拡大画面で干渉パターンを見ることができました。
最近のカメラは、合焦機能が良くなってきています。オートフォーカスで星が撮影できるようになるでしょう。
そうなると、このようなものは望遠鏡以外では必要なくなりそうです。今でも、金星・木星等の明るい星ではピントを合わせてくれます。
2017/10/31