1.オホーツク海気団と小笠原気団
ふつう、日本に梅雨があるのは次のように説明されています。
春になって冬のシベリア気団が消滅した後、初夏に入った頃にオホーツク海付近に高気圧が停滞します。
この高気圧は長期にわたって停滞するのでオホーツク海気団とも呼ばれます。
また、この頃南方の小笠原付近で勢力をつけてくるのが夏の小笠原気団です。
日本列島は、この二つの気団のちょうど真ん中に挟まれます。
オホーツク海気団は冷たい湿った風を、
小笠原気団は暖かい湿った風を日本列島にもたらすため前線ができます。
2つの気団はほとんど動かないため、前線も長期にわたって停滞します。
これによって長期間雨が降り続け、梅雨となります。
このような気圧配置は、夏から秋になる季節の変わり目でも起こり、こちらは、秋霖とか秋雨とかいわれています。
ただ、台風の季節と重なり、これにかき乱されることが多く、梅雨のようにはっきりとはしないのが特徴です。
天気図を確認してみます。図1は、2006年7月20日の天気図です。
北海道北東のオホーツク海に高気圧があり停滞しています。いちおうこれがオホーツク海気団にあたります。
日本はるか東方海上にある高気圧が小笠原を通って日本南方をおおっています。
小笠原気団のように見えませんが、真夏になるとこのあたりまで北上してくることがありますから小笠原気団としていいでしょう。
日本列島はこの二つの高気圧に挟まれ、本州南岸から九州北部にかけて前線が停滞しています。
図1 2006年7月20日9時の地上天気図
2.梅雨の天気図
ところで、梅雨期間中の天気図を見ていてもこのような気圧配置になることは非常に少ないことに気がつきます。
たとえば、以下のような天気図が出てきます。
図2 2006年6月26日9時 地上天気図
オホーツク海には低気圧があり、本州東方海上に高気圧があります。
北海道東方海上の高気圧は1週間程度居座ることがあり、オホーツク海気団の変種ともいえなくもないのですが、
図の高気圧は、南によりすぎており、しかも移動性高気圧です。
このように明らかにオホーツク海気団がない場合があります。
図3 2006年7月13日9時 地上天気図
オホーツク海に高気圧はありますが、勢力は日本海にある低気圧にブロックされて日本列島に届いていません。
前線は気圧の谷の中心ではなく、小笠原気団の勢力圏内に引かれています。
オホーツク海気団の影響が及ばないところに梅雨前線があります。
これらの天気図からはっきりするのは、梅雨前線とオホーツク海気団とは無関係であることです。
そもそも、オホーツク海気団は存在するのでしょうか。ないのだとすると、
一般にいわれている梅雨ができるしくみは、正しくないということとなります。
梅雨期には何が起こっていて、どのようにして発生しているのか考えてみることにします。
3.梅雨前線の特徴
気象通報から天気図を書くことがあります。この元となるデータのうち、漁業気象と呼ばれる気圧配置・等圧線などは、
本来は各地の天気データを利用して求められています。
したがって、各地の天気データがあれば気圧配置等圧線などは記入可能なはずです。
たとえば、前線は、天気の悪いところ、風がぶつかるところ、
気温が大きく変化するところの中心を結んで引くことができます。
ふつうの前線でしたら、慣れればそんなに違わない位置に引くことができます。
ところが、この方法で梅雨前線をひいてみようとしても、引けないのがふつうです。
前線の両側で気温の変化はほとんどなく、風も全体に南西寄りなのでぶつかっているという様相はありません。
天気が悪いところくらいが唯一の判別の手がかりとなります。
このように判別しにくい中、どのように引かれているかというと、天気の悪いところの中心には、
相当温位が大きく変化するところがあり、ここに梅雨前線を引いているようです。
相当温位は、気温が同じであっても湿度が異なると変わります。気象通報では湿度は放送されませんので、
各地の天気から梅雨前線の位置がわかりづらいのも無理はありません。
相当温位が異なるというのは明らかに異なる二つの気団がぶつかっていることを示していますが、
天気図上でははっきりしないというのが実情です。
相当温位は、気象庁から発表されている図面類の中では、FXJP854にあります。
12時間後から48時間後まで、12時間毎の850hPa高度(約1500m)の予測図で、風向風速と併せて書かれています。
この図の等相当温位線が密集しているところにそって、梅雨前線がひかれているのがわかります。
図4は2016年6月4日午前9時発表のFXJP854にある24時間後の相当温位予測図に5日午前9時の速報天気図を重ねたものです。
相当温位が345℃以上のところを濃いピンク色、330℃以上を薄いピンク色、300℃以下のところを水色で塗りつぶしています。
梅雨前線(北緯26〜28°付近)の北側に等相当温位線が密集しているのがわかります(北緯28〜32°付近)。
ここで、相当温位が340℃前後から310℃前後に急激に変化しているのがわかります。
図4 相当温位と梅雨前線
この前日に九州から東海地方が、当日に関東甲信越地方がは梅雨入りしたとみられるという報告が出されました。
<2016.6.10 図4 図・解説のみ差し替え>
4.ジェット気流と梅雨
日本に梅雨がある原因として、次に耳にするのが、ジェット気流との関係によってできるというものです。
上空を西から東に流れるジェット気流は、春先から夏にかけてだんだん北上してきます。
ところが梅雨頃には、その行く手にはヒマラヤ山脈があって、進行を妨げられます。
こうなると、ジェット気流は山脈の北と南の二手に分かれて流れ、オホーツク海あたりで合流します。
ジェット気流の合流によって気圧が高くなり、地表ではオホーツク海気団が作られるというわけです。
この説の最大の難点は、先に述べたようにオホーツク海気団そのものがはっきりしないことです。
さらに、本当にジェット気流は二手に分かれているのでしょうか。
下の図は2016年6月4日午後9時(図4の12時間前)の北半球500hPa高層天気図からの抜粋です。
図5 500hPa高層天気図とジェット気流
茶色く塗ったところがヒマラヤ山脈です。この高度の気象に影響を与えそうな高さのところを濃く塗っています。
ジェット気流は青矢印で記入しています。地中海の方からやってきたジェット気流は、ヒマラヤ山脈にぶつかったために2手に分かれたようには見えません。
確かに日本付近では、2列のジェット気流が認められます。北側のものは、低気圧をまわる流れのようにも見えます。
また、合流する場所は、オホーツク海から南に離れた本州東の海上です。
地上天気図ではここには高気圧は存在していません。低気圧に伴う寒冷前線があります。
従って、ジェット気流が二手に分かれて合流するために梅雨が起こるという説も難点があります。
5.ジェット気流と前線
しかし、ジェット気流が梅雨と何らかの関係があるというのは、下の図6を見ると明らかです。
図は東経130度に沿った高層大気の断面図です。図4と同じ時刻のものです。
図の右側が低緯度、上が上空になります。図中等風速線を青線で、等温線を赤線、等温位線を赤紫線でなぞってみました。
図からPOHANG(釜山:北緯36°)上空200hPaの高さ(約12km)に最も強い風がふているところがあるのがわかります。
ここがジェット気流の中心となります。強風帯は、これより高いところでは、北緯31〜40°にかけて広がっています。
図6 高層大気断面図
興味を引くのは、強風帯が低空側にまっすぐ降りていることです。
図面の左端にも強風帯があります。これは一つ前の図の北緯40°付近にある南向きのジェット気流に相当します。
北緯35°付近の強風帯に注目することにします。
こちら側の強風帯は、低くなっても強風帯の緯度はほとんど変化しませんが、
500hPa(約5km)高度付近から下側では、高度が低くなるにつれ緯度が低く(右下がり)になっていきます。
さらに、この強風帯付近では、赤紫線(等温位線)左上がりに、赤線(等温線)右下がりになっています。
二つの線はここより南側では、ほぼ水平になっています。
等温線が左下がりということはどういうことなのでしょうか。気温は上空ほど低くなっています。
その等温線が降りてくるところでは気温が低くなっていることを示しています。つまり、左下がりの等温線は、南側が暖かく北側が冷たいことを示しています。
また、等温位線が左下がりなのも、上ほど温位が高いので、南側ほど暖かいことを示します。
普通は等温線の傾きの大きいところに前線を引くことができます。特に、名瀬から福岡の上空で0〜20℃の等温線が「S」字型に曲がっているところがあります。
この場所では、上昇した空気が雨粒を作り潜熱を放出して空気を暖めているようです。温位の線も場所はずれますが、この近辺で急激に変化しているのがわかります。
これらの図からは、ジェット気流と前線が何らかの関係があることを推定させます。
次に、ジェット気流と前線の関係について考えてみます。一般に、前線の特徴である暖気と寒気がぶつかっている場所を考えてみます。
ここでの地表の気圧は、仮に同じとします。それでも、暖気側の上空で気圧が減少していく割合は、寒気側より暖気が軽いの分だけ小さくなります。
そのため、 上空の気圧は、暖気側はそれほど下がらず高く、寒気側大きく下がって低くなります。このようにして気圧に差が生じます(気圧傾度力)。
このような場合は、地衡風の原理に従い、 強い西風が吹くことになります。そのため、前線の上空ではジェット気流が吹くことになります。
実際には、ジェット気流が吹くために南側の暖気が北上できず、暖気と寒気がぶつかったようになり、前線ができるともいわれています。
前々図と比べてみます。850hPa高度(下から2本目の高度線)で、名瀬−鹿児島間の温位差が5℃に対して、
前々図の相当温位差は30℃近くあります。相当温位は温度だけではなく、水蒸気量が多くなると大きくなりますから、
南側の空気の湿度が高い事がわかります。ジェット気流の南側にある空気は、暖かいだけではなく、非常に湿った空気といえます。
このような空気が日本列島の南側に居座っていることが梅雨と関係しているのかも知れません。
6.梅雨前線ができるわけ
日本に梅雨がある仕組みを考えてみます。なぜ梅雨前線ができ、日本列島付近で停滞するのかということに置き換えて考えてもいいでしょう。
ここまでの話でわかったことは、梅雨前線の南側では相当温位が高くなっていること、上空にジェット気流が流れているということです。
前線が停滞するということは、ほぼ同じ位置をジェット気流が流れているということになります。
それでは、どうしてこの時期にジェット気流が日本上空に停滞するのでしょうか。
ここで問題となってくるのはヒマラヤ山脈の存在です。500hPaの高層天気図(図5)を見直してみます。
ヒマラヤ山脈に注目してみると、その南側では気温や高度は高く、北側では低くなっています。
南側の暖気は山脈を越えて北側に行けないようです。北側の寒気も同様です。
従って、山脈の中に暖気と寒気の境界である前線が固定された様になります。
上空の空気は偏西風の影響で山脈の東側へながれていき、山脈の風下側で暖かい空気と冷たい空気がぶつかります。
空気はすぐに混じることはなく、温度差の大きなところができます。それがそのままの状態で東へと延びていきます。
ここでは風が強くなり、ジェット気流となって吹き続けます。
温度差のある場所がヒマラヤ山脈で固定されれば、ジェット気流の位置もその東側で固定されることになります。
梅雨前線ができる仕組みについてもっと詳しく見ていくことにします。
前線は、暖気と寒気がぶつかり、暖気が寒気の上の乗り上げることによって雲が発生し、雨を降らせます。
梅雨前線では、寒気の元となるオホーツク海気団がはっきりしないのが問題となっています。
暖気については、北太平洋高気圧からの風である事がはっきりしています。
地表天気図を見ると、北太平洋高気圧の南西側の縁をまわるようにして流れてきた風が日本列島にやってきていることがわかります。
下図は、2016年6月5日午前9時の速報天気図です。
図7 2016年6月5日午前9時地表付近の暖湿大気の流れ
等圧線から予想される空気の流れを、フィリピン近海を通るものについて赤紫線で入れてみました。
この風は、南洋の暖かい海面上を吹いてきますから、暖められ、水蒸気をたっぷりもらっています。
これが、梅雨前線の南側にたまっている相当温位の高い空気になります。
次に寒気がどこにあるのかを考えることにします。もう一度、この時期の日本列島付近の大気の構造について考え直してみます。
上空にはジェット気流が吹いていると書きました。そこは、寒気と暖気が接している場所であるとも書いています。
この寒気が梅雨前線を作る要因とは考えられないでしょうか。
天気予報で、上空に寒気が流れ込んできて大気が不安定になっている(のでにわか雨に注意)といったことがいわれることがあります。
雨が降るためには、寒気が流れ込む場所は上空であってもいいことを示しています。
上空の気温を見るために、高層天気図を見直してみます。
下の図は2016年6月5日午前9時のアジア太平洋500hPa高層天気図(AUPQ35 気象庁発表資料)からの抜粋です。
図5とほぼ同じで、各地の観測データが記入されています。
図8 2016年6月5日午前9時 500hPa高層天気図
図の中で、実線で引かれているのが等圧(面等高)線で、破線が等温線になります。また、各地にかかれている数値のうち上のものがその地点の気温です。
寒気の中心は「C」で示されています。また等温線が、南にたわんでいるところは寒気が南下していることを示しています。
「C」は黄海のおく(北緯40度東経120度)にあります。寒気が南下しているのは、北海道から千島列島付近(どちらかというと寒気の中心になっています)と、
中国大陸長江(揚子江)中〜上流域です。
ジェット気流の位置を確認します。等圧線の間隔が狭くなっているところ、風力矢羽根のたくさんあるところを探すと、
長江河口付近から西日本東海地方にかけてと、北西側から東北地方に向かう地域に強い風が吹いていることがわかります。
これは図5の青線の位置に相当します。
ここがジェット気流の位置になります。
このうち、西日本を通るジェット気流の中(北緯32〜33度)での気温に注目してみます。東経115度で−11.7℃、120度で−8.5℃、
130度で(福岡)で−4.9℃、135度(潮岬)で−3.1℃とだんだん暖かくなっています。
吹き始めは同じ気温だったはずですから、吹いている内にだんだん暖められていることがわかります。元々は冷たい空気でした。
上空に冷たい空気が流れ込んでいるといっていいでしょう。なお天気図には、名瀬の東に暖気の中心(「W」の印)があります。
ここは地上天気図の温帯低気圧(寒冷前線)にあたり、地上付近からの暖かい空気の流入が激しい場所と推定されます。
実際の気温はどのようになっているのでしょうか。
気象庁のサイト(http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/upper/index.php)から各地の高層の気温を見ることができます。
2016年6月5日午前9時の南大東島・名瀬・福岡の気温をエマグラムにプロットしてみました。橙線が南大東島、赤紫線が名瀬、赤線が福岡のものです。
図9 2016年6月5日午前9時 高度による気温の変化
この時、梅雨前線は南大東島と名瀬の間にありますが、両地点ともほとんど前線上と見て良いでしょう。
図からわかることを整理してみます。
上空500hPa(6000m)以上は、3地点ともほとんど同じ変化をしています。これは、上空に流れ込んだジェット気流の特徴を示しています。
名瀬、南大東島の線はほとんど同じです。梅雨前線近辺の気温変化の特徴を示しているようです。
600hPa(3000m)以下の高さでは、25度の湿潤断熱線(青色で記入)とほぼ重なっています。
上昇する大気がたくさんあり、その温度変化を示しています。地表近くからほぼ重なっているのは、地表近くからの空気の上昇を示しています。
名瀬の方が、600〜500hPa(3000〜5000m)の気温が高めなのは、
この区間でも暖気の上昇が続いている(湿潤断熱線と重なっていることからわかる)ためです。
なお、25℃の湿潤断熱線が、上空で、気温より高くなっているのは、この2地点の大気が不安定で、上昇しやすくなっていることを示しています。
名瀬・南大東島の線が、福岡の線より右にずれている(暖かい)部分は、下層に流れ込んだ空気の分布を示しています。
これが、南から流れ込んで来た暖かい湿った空気に相当します。
ジェット気流に注目してみると、もう一つ大気を上昇させる要因が考えられます。
先ほどの高層天気図(AUPQ35の抜粋)から、さきほど気温を読み取った地点の風速を矢羽根の数に注目して。風速を読み取ってみることにします。
長い羽根は10ノット、短い羽根は5ノットです。同じ地点の値を順番に見ていくと、30、35、35、40とだんだん速くなっているのがわかります。
全体の様子をみると、東経110〜120度付近は気圧の谷の東側になっています。
そのさらに東側は、等圧線がほとんどまっすぐ通っています。この区間でも、
等圧線間隔がだんだん狭くなっていることから、風速が大きくなっているのを読み取ることができます。
日本列島にやってくるジェット気流は、しだいに加速しています。
風速が速くなっていくところでは、上昇気流が発生し、地表付近に低気圧ができる事があります。
その例として気圧の谷の東側(風向が右への変化する割合がだんだん大きくなっていくところ)があげられます。
この場合も、風速の増加に伴って、地表付近では上昇気流が発生し、低気圧ができる事も考えられます。
地上天気図(速報天気図)を確認すると、四国南方の海上に低気圧が発達中であるのがわかります。
このようになるのは、ヒマラヤ山脈が関係していると考えられます。山脈の東側で、南北の大気に気温差ができ、ジェット気流が吹き始めます。
いきなり風が吹こうとしても、山からは空気が供給されませんからなかなかできません。
そこで、山の北側や南側から空気が回り込むことで、ある程度の風が吹くことができます。
天気図の時期はまだジェット気流が南にあるので、北側からの流れは大きく南に回り込む事になります。
これが、気圧の谷ができる原因です。当然これにともなって、寒気を引き寄せてきます。
空気が供給されるのはそれ以外にもあります。地表付近から空気を吸い上げるという方法です。
このように空気を集めてくることでだんだん風が強くなって、南北の地点の温度差を維持するのに必要な強さの風が確保できるようになります。
日本付近に梅雨がある理由は、ヒマラヤ山脈によってジェット気流が固定され、その北側に寒気のかたまりが上空に居座り続けることと、
地表付近では、北太平洋高気圧の発達によって、南の暖かい湿った空気がながれこんでくることとで、
寒気と暖気が接近し、大気が不安定になって雨が降りやすくなるのが原因です。
2018.8.31 この節書換え
7.集中豪雨と線状降水帯
梅雨に入るとよく耳にする言葉として集中豪雨というものがあります。
特定の地域に雨がまとまって降り、山崩れ・土石流といった土砂災害や河川の氾濫によって洪水被害をもたらすことがあります。
さらに、線状降水帯という用語も聞くようになりました。強い降水の起こっている範囲が細長くなっているのが特徴です。
一般的に強い雨を降らせる雲は積乱雲といわれています。
積乱雲自体はでき始めてから1時間ほどで消えてしまうので、降水もそれほど長く続かず30分程度でやんでしまいます。
単独では集中豪雨を起こすほどの力はありません。たくさんあればどうでしょう。
線状降水帯をひまわり画像でみると、積乱雲が連なっているのがみえますから、
これが次々とやってくるのなら長時間降水が続くというのが説明できます。もう少し詳しく見ていきます。
2017年7月5日から6日にかけて九州北部で発生した集中豪雨については気象庁から解析結果が発表されています。
これによると、この時の豪雨は、地表付近では九州に向かって南西方向から暖かい湿った空気が流れ込んで来ていたことと、
上空5000m付近で西から強い寒気が流れ込んでいたことが原因で大気が非常に不安定になっていたことが主要因とされています。
南西から流れ込んだ空気は不安定になったことにより上昇を始め積乱雲となり、雨を降らせ始めます。
このようにしてででた積乱雲は上空の寒気によって東に流されていきます。
積乱雲はじゅうぶんに発達してくると上空から寒気を吹き下ろすようになります。
この寒気は、地表分では九州北東部に見られます。南西からは暖かい湿った空気が流れ込み続けています。
これが寒気の塊(と背振山地)にぶつかることで上昇流を作り新たな積乱雲を作ります。
このようにして、流れていった積乱雲の後方に新たな積乱雲が作られることによって、積乱雲の並びができます。
このようにしてできたものが、この豪雨をもたらした線状降水帯です(下図10)。
※ |
図にはバックビルディン型形成と書かれています。これができるのは中層と下層の大気の流れが同じ方向である場合です。
実際には斜交しています。この場合はバックアンドサイドビルディング型形成となって、少し先太りの降水帯ができます。
報道発表資料では触れられていませんが、背振山地と冷気塊の位置関係によって上昇気流ができる場所が固定されたようにみえます。
そのために、バックビルディン型形成に近い形になったようです。
(報道発表資料には「脊振山地が寄与していた可能性があります」とは書かれています。)
|
図10 平成29年7月九州北部豪雨発生のしくみ
気象庁報道発表資料平成29年7月14日より引用
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
梅雨期の集中豪雨のしくみを見ていると気になってくることがあります。「オホーツク海高気圧」という言葉が出てこないことです。
梅雨がオホーツク海高気圧と太平洋高気圧のぶつかり合いによってできるのなら、明確に出てきてもよさそうなものです。
出てこないということは、オホーツク海高気圧は全く関係ないと見なしてもよさそうです。
逆にでてくるのは、大気下層での大量の水蒸気の流入とそれに斜交する方向におこる上空での寒気の流れです。
ここまでに述べてきた、太平洋高気圧をまわってやってくる大気の流れとジョット気流(偏西風)によって梅雨が形成されるという話と一致します。
梅雨前線でぶつかっているのは、大気下層で起こっている北太平洋高気圧の縁をまわって日本列島にやってくる暖かく湿った大気と
上空に流れ込んでくる寒気とみるべきでしょう。
参考にしたウェブページなど
気象庁 報道発表資料 平成29年7月5-6日の福岡県・大分県での大雨の発生要因について
https://www.jma.go.jp/jma/press/1707/14b/press_20170705-06_fukuoka-oita_heavyrainfall.pdf
気象庁 平成29年7月九州北部豪雨について
https://www.jma.go.jp/jma/press/1707/19a/20170719_sankou.pdf
2024.6.30 この節追加
用語の解説など
- 温位と相当温位
- 空気塊を上昇させていくと、気圧低下に伴い断熱変化で気温が変化します。大気の構造が高さによってどうなっているかを考える場合、
気温は上空ほど低くなるという傾向がでてしまい、大気の性質がわかりにくくなります。
そのため、気温の代わりに、大気が1000hPaにしたときの気温を用いて考えます。この温度のことを温位といいいます。
また、気温の変化に伴い空気中の水蒸気が水滴となって放出されても気温が変わります。これらの場合、気温や温位が変化しますが、元は同じ空気です。
そこで、空気中に含まれている水蒸気は全て水滴となり、放出された潜熱は空気を暖め、その後熱を出入りさせずに(断熱変化)
圧力を変えて1000hPaになったときの空気の温度(絶対温度)を考えます。この場合は、熱の出入りがなければ、元が同じであった空気は全て同じ値となります。
この値を相当温位といいます。
たとえば、湿った大気が山越えをして、風下側のふもとでフェーン現象が起こったとします。この時、当然気温は変化します。
温位は雲ができるまでの上昇中と山を越えた後の下降中では同じ値となりますが(値は異なります)、雲ができている間は変化します。ところが、
相当温位は途中の経路のどこでも同じ値となります。このように相当温位を用いると気温が変化していても、元が同じものは他と区別できるのです。
2007. 7. 1 掲載
2016. 6.10 モバイル端末対応
(3.4.5節の図を2016.6.5に変更)
2018. 8.31 6節書換え
2024. 6.30 7節追加