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火山の噴火とマグマ

火山噴火のようすは、火山によって異なります。また、同じ火山でも、噴火の度毎に様子が変わるものもあります。 そのような違いがどうして生じるのかまとめてみます。

マグマの粘性と火山噴火の様式
 火山の噴火は、噴出物の種類から見ると、大きく分けて溶岩を流すタイプと、火山砕屑物(火山灰など)を放出するタイプがあります。 一般的には、この違いはマグマの粘性と関連づけられています。マグマが流れやすいか流れにくいか、感覚的な言葉で言えばさらっとしているか、 どろっとしているかの違いにあります。前者を粘性が小さい、後者を粘性が大きいといいます。実際には粘性とは、 液体の中にある一定の形をした物体を一定の速度で動かしたとき、液体から受ける抵抗力の大きさで表します。 この値はあくまでも数値ですから違いを比較する用語は大きい小さいであって、高い低いという使い方は間違いといえます。
 マグマが地下深くから上昇してくるにつれ、マグマに加わっている圧力が下がります。そうなるとマグマから気体成分(火山ガス)が分離します。 炭酸飲料水の栓を開けると泡が出てくるのと同じ原理です。発生した泡は、マグマの粘性が小さいとマグマ中を容易に移動することができるので、 マグマから脱けていきます。逆に粘性が大きいと動くのに大きな抵抗を受けますから、なかなか脱けることができません。 水の中の気泡はすぐに浮かんでくるのに対して、油の中の気泡はゆっくり浮かんでいくのと同じ原理です。
 気泡を含んだマグマが地表近くまで上昇してくると、マグマにかかる圧力はさらに圧力が低下します。 気泡はそれに合わせて体積を大きくしようとしますが、粘性が大きいため急には膨らむことができず、中に大きな圧力を残したままになります。 これが何かの拍子に一斉にはじけ、マグマを粉々に壊して吹き飛ばします。このようにして火山灰が作られます。 逆に気泡の少ないマグマでは分離したガスの圧力で押されるようにして、マグマ(溶岩)が火口から流れ出します。 適度に気泡の残ったマグマからは、大きな気泡がはじけるときにマグマを引きちぎって大きな塊=火山弾を作ります。
 溶岩を流出するタイプの噴火をハワイ式噴火、火山弾を放出するタイプの噴火をストロンボリ式噴火、 連続的な小爆発によって火山灰を放出するタイプの噴火をウルトラブルカノ式噴火といいます。溶岩が流れた跡は細長い台地になります (用語はないので、紛らわしいですが溶岩流台地と呼ぶことにします)。火山弾放出タイプでは、火口付近に火山弾を円錐形に積み上げて、 噴石丘をつくります。火山灰は周辺にまんべんなく積もるので目立った地形を作ることはありません。
 以上をまとめると以下の表を作ることができます。

マグマ中の気泡:少ない ←−−−−−−−−−−→ 多い
マグマの粘性 :小さい ←−−−−−−−−−−→ 大きい
噴火のようす :溶岩流出 ←−−−−−−−−→ 爆発的
噴出物    :溶岩流    火山弾       火山灰
噴火の様式 :ハワイ式 ストロンボリ式 ウルトラブルカノ式
地形(噴出物)          噴石丘      (なし)
  (溶岩流) (溶岩流台地)←−−−−溶岩円頂丘→溶岩岩尖

※溶岩円頂丘は溶岩流の長さが高さの10倍以下のもの
 溶岩岩尖は地理では使うが、地学ではあまり使わない
マグマの組成とマグマの粘性
 一般的にマグマの粘性は、マグマの組成と関係があるといわれています。  マグマの主成分は二酸化ケイ素です。それ以外に、アルミニウム・ナトリウム・カリウム・鉄・カルシウム・マグネシウムなどが、 酸化物の形で混ざっています。マグマの温度が上がると、周囲の岩石から鉄・マグネシウムなどの酸化物が周囲の岩石と反応し、 溶け出してくるため、二酸化ケイ素の含有率が少なくなります。逆に、温度が下がるにつれ、その温度に応じてマグマ中から、 かんらん石・輝石・角閃石などの鉱物が結晶となって出てくる(晶出する)ため、二酸化ケイ素の含有率が多くなります(結晶分化作用)。 その結果、マグマの温度が上がると二酸化ケイ素の含有率が下がるという関係ができます。この関係は、実験室でも確認ができますが、 なぜそうなるかという説明は簡単ではないようです。このような関係は他の物質にも見られますのでふつうに起こっている現象なのでしょう。
 マグマの温度が下がり固結するときに、マグマの組成(温度)に応じてできる鉱物の組み合わせとその割合が決まります。鉄などを含む鉱物は、 二酸化ケイ素の含有率の含有率の小さなものから順番にかんらん石・輝石・角閃石・黒雲母が含まれるようになります。この時、 順で隣り合わせになる鉱物は同じ岩石に含まれることはできますが、順番で一つおき以上離れた鉱物(例えばかんらん石と角閃石) は同時に含まれることはできません。
 かんらん石〜黒雲母までの鉱物を有色鉱物といいます。鉱物全体に占める有色鉱物の割合を色指数といいます。 二酸化ケイ素の含有率が少なくなると色指数が多くなります。深成岩では有色鉱物が作る黒い斑点の割合が多くなりますので、 全体に黒っぽくなっていきます。火山岩でも同様の傾向がありますが、流紋岩の一種黒曜岩は真っ黒になるという例外があります。
 マグマの組成と粘性の関係について一般的にいわれていることが、どうしてそうなるのかは説明できません。とりあえず、 何とか理由をつけてみることにします。マグマの主成分は二酸化ケイ素です。一般にガラス細工に使われるガラスの原料です。 ガラス細工の様子を見ると、温度が高いうちは流れやすいのですが、冷めてくるにつれ流れにくくなり最後には完全に固まってしまいます。 温度が高いと粘性が小さく、温度が下がるにつれ大きくなっていきます。マグマもガラス細工とだいたい同じくらいの温度ですから、 同じ事が起こっていると考えられます。二酸化ケイ素に不純物が混ざることによって粘性がどう変化するのかは確かめて見る必要はあります。
 以上をまとめてみます
マグマの温度: 高温  ←−−−−−−−−→ 低温
SiO2含有率 :少ない ←−−−−−−−−→ 多い
火成岩
  有色鉱物 :かんらん石  輝石  角閃石  黒雲母
  色指数  :多い   ←−−−−−−−−→ 少ない
深成岩色合い:黒っぽい ←−−−−−−−−→白っぽい
火山岩の名称:玄武岩    安山岩    (流紋岩)
マグマの粘性:小さい  ←−−−−−−−→  大きい
 これを先ほどの表とあわせてみると、マグマの組成と噴火の様式 との間に関係性があることがわかります。 間にいくつもの項目を介していますので、完璧というわけにはいか ないようです。

特殊な噴火
 最初の表に戻って考えてみることにします。教科書には、表の例外としてマグマ水蒸気爆発があげられています。 マグマが地下水・海水・氷河に接することで大爆発を起こす現象です。2011年のアイスランドでの噴火をその例としてあげることができます。 玄武岩質マグマにもかかわらず大量の火山灰を吹き上げ、ヨーロッパ中の空港を混乱させました。
 他にも、表に当てはまらない例がないのでしょうか。実際にいくつかあります。順番に考えていくことにします。

−−マグマの噴出量−−
 マグマの噴出量が違うと、噴火の様相が違ってくることは容易に推定できます。従って、表を整理するときには、 マグマの噴出量を一定にしておく必要があります。最初の表はそれを考慮して書いたため教科書とは一部異なっています。
 一般的には、マグマの量が多い噴火を激しい噴火というようです。マグマが少ないと火口で爆発を繰り返すだけなのに、 多くなってくると噴出物を大量に出すようになり、火口から溶岩流が流れてくるようになります。 粘性の大きなマグマでの噴火の様式をマグマの噴出量が小さなものから順番に見ると次のようになります。
    
ブルカノ式噴火小爆発により火山灰を巻き上げる
(普段の桜島)
ウルトラブルカノ式噴火連続した小爆発
霧島新燃岳
プリニー式噴火爆発の勢いで噴煙が柱のようになる(噴煙柱の形成)
有珠山(1976)
スフリエール式噴火上空にたまった火山灰の重みで噴煙柱が崩れ落ち火砕流が発生
ピナツボ山
−名称なし−半径10kmの環状地域で噴煙柱を形成一斉に崩壊し大規模火砕流発生
新第三紀大台ヶ原山

−−発泡の度合い−−
 白亜期末から新生代初期にかけて西南日本に大規模に花こう岩質マグマの貫入が起こりました。これによって、兵庫県南部では,、 大規模火砕流(溶結凝灰岩)−流紋岩溶岩の噴出−花こう岩の貫入という順番に岩石が形成されていきます。 この間にマグマの組成に大きな変化は見られません。にもかかわらず、爆発的な噴火から穏やかな噴火に変わっています。 この理由はマグマの発泡の度合いが関係しています。ビールの泡のように、マグマ中の発泡した部分は、 マグマだまりの上の方に集まってきます。この部分が最初に押し出され、上の表の「名称なし」式噴火を起こし溶結凝灰岩を作ります。 次に下の方にあった気の抜けたビールに相当する部分が上がってきますが、この部分は泡が少ないため爆発を起こさず、 おとなしく溶岩が出てくる噴火となります。
 このように同じマグマでも、発泡の度合いによって噴出様式が変わるのは明らかです。

−−噴火の場所−−
 噴火口のできる場所は、火山山頂か山麓に分けられます。両方で同時に起こることもあります。山麓にできる場合は、 いくつもの噴火口が直線上に並ぶことがあります(割れ目噴火)。 山頂で噴火する場合、雲仙山のように火砕流が発生することがあります、 山頂にできた溶岩円頂丘が崩落または爆発することによって、溶岩片が粉々に砕かれ、山腹を高速で流れ下る現象です。 溶岩円頂丘が崩落して火砕流が発生するタイプの噴火をメラピ式噴火、爆発がきっかけとなるタイプをプレー式噴火といいます。 山腹での噴火ではメラピ式噴火は起こりません。



以上を参考に以下の問いに答えてください。出典は平成25年度大阪府公立高校後期入学検査理科の問題です。 HTM化するため表のレイアウトを変更し、一部省略したり説明を加えたりしています。

3 大阪に住むKさんは、火山灰に含まれているカンラン石やキ石と、同じ名前の鉱物が小惑星イトカワから採取された微粒子に含まれていることを知り、 火山灰の観察を行った。次はKさんが観察した内容とWebページで調べた内容である。あとの問いに答えなさい。
【大阪の地層中の火山灰】
 図1は、Kさんの学校の近くにある火山灰の層を含む地層のスケッチである。この地層には、うすい桃色の火山灰の層と、泥の層がある。 Kさんはこの火山灰の層から火山灰を採取した。
 −−図1 泥の層に挟まれる火山灰の層のスケッチ 省略 −−

観察1 図2中のAは、図1で示された火山灰の層から採取された火山灰を、双眼実体顕微鏡で観察するために、準備Pをした後、 びんに入れたものを示している。図3は、Aの粒の顕微鏡写真である。無色鉱物(無色・白色の鉱物)が多く白っぽかった。
 −−図2 瓶に入った、洗ったあとの火山灰Aの写真 省略 −−
 −−図3 火山灰の顕微鏡写真           省略 −−

Webページで調べたこと
 図1で示されたうすい桃色の火山灰の層は、大阪平野に広く分布している。この火山灰の層は「ピンク火山灰層」と呼ばれており、 約100万年前に、現在の九州地方に当たる地域にあった火山が噴火した際にたい積したと考えられている。また、 図1の泥の層は湖か沼の底でできたと考えられている。

【桜島の火山灰】
 Kさんは、修学旅行で九州の桜島を一望できる場所を訪れて、桜島の噴火により降り積もった火山灰を採取した。
観察2 図4中のBは、採取した桜島の火山灰を、双眼実体顕微鏡で観察するための準備Pをした後、瓶に入れたものを示している。 図5は、Bの粒の顕微鏡写真である。有色鉱物が多く黒っぽかった。
 −−図4 瓶に入った、洗ったあとの火山灰Bの写真   省略 −−
 −−図5 火山灰の顕微鏡写真 中央の鉱物をキ石と説明 省略 −−

Kさんの感想(原文ではKさんのイラストからの吹き出しに書かれている)
「ピンク火山灰層」の火山灰と桜島の火山灰とを比較すると、桜島の火山灰の方が有色鉱物が多く、黒っぽいことがわかった。

(1) −−ピンク火山灰層の堆積した時代と代表的な古生物を問う問題 省略−−
(2) −−海底で泥のたまる条件・場所を問うの問題         省略−−
(3) −−火山灰を観察するための準備Pの手順を問う問題      省略−−
(4) −−火山灰中に含まれる鉱物の種類を問う問題         省略−−
(5) −−火山ガスの主成分を問う問題               省略−−
(6) Kさんの行った観察1、観察2からわかったA、Bの「火山灰の特徴」より、次のア、イのうち、どちらが噴火が激しかったと考えられるか。 一つ選び記号を書きなさい。また、そのように考えた理由を「火山灰の特徴」と「マグマの性質」を関連付けて、簡潔に書きなさい。
 ア Aを噴出した噴火   イ Bを噴出した噴火

−−−−ここから解説−−−−

(6)の考え方の手順としては以下のようになります。
 桜島の火山灰の方が有色鉱物が多く黒っぽい(Kさんの吹き出しから)
 →色指数が大きい
 →二酸化ケイ素の含有量が少ない
 →マグマの粘性が小さい
 →噴火は爆発的ではない(Aに比べて)
従って答えは 記号は「ア」を選び 説明としては
 「Bの方が黒っぽい(有色鉱物が多く含まれる)ので、マグマの粘りけは少ないと考えられる」となります。
 でもこの答えはあまりにも教科書的で好きになれません。本質を見落としているからです。スタートをKさんの感想からにおくと、 このような答えにならざるを得ません。
 まず上記の手順に「風が吹けば桶屋が儲かる」的な発想がないか考えることにます。前半の本文中の解説も再確認してください。
火山灰を構成している粒子は、鉱物の他に、火山ガラス・岩石のかけら(岩片)が含まれ、それによって全体の色が決定される。
Aの火山灰は、火山ガラスが多くこれの色が反映されて、全体に白っぽくなっている
爆発的になるかどうかはマグマの発泡度の違いが関係するが考慮されていない
桜島の噴火では、溶岩が海に流れ込みマグマ水蒸気爆発を起こしたことが何度かある
爆発的な噴火=激しい噴火 ではない
 最後の一つを除いて答えに大きな影響を及ぼさないでしょう。1・2の問題は鉱物全体の有色鉱物の比率や、 角閃石を多く含むかキ石を多く含むかの違いで確認することができます。3もAの写真を見ると、 火山ガラス中に気泡が残されていることから確認できます(壁紙はピンク火山灰を作る粒子の写真です 気泡が確認できます)。 気泡が見られることから解答をここからスタートさせて爆発的であったと答えても正解なのでしょう。
 本文中でも触れていますが、「激しい噴火」とは、噴出物の総量が大きくものをいいます。爆発的かどうかも多少は考えますが、 あまり大きなウエイトを占めてはいません。桜島の普段の噴火と、ハワイにあるキラウエア山の噴火ではどちらが激しいでしょうか。 問題文にある二つの噴火を、本文中の−マグマの噴出量−での噴火の様式にあてはめれば(桜島は少しタイプが異なるが)、 桜島の噴火は、プリニー式になるかどうかの噴火であるのに対して、ピンク火山灰を作った噴火はスフリエール式噴火かもう一つ激しい 「名称なし」の噴火であると考えられます。このようなことが、なぜわかるかというと、 火山灰がどれだけ離れたところでどれくらいの厚さでたまっているかを調べることによって、噴出物の総量を求めることができたからです。 そして噴出物が多いほど、遠くまで飛ばされることがわかります。このことを逆に使えば火山灰が九州から大阪まで届く火山噴火と、 火山灰が火山周辺にしかない火山噴火とではどちらが激しいといえるのかは明らかです。 過去に大阪で見られる火山灰がどこから飛んできたのかが問題になりました。九州からだとすると火山灰の厚さは、 桜島程度の噴火では問題外で、阿蘇・姶良クラスの火山灰が必要であると推定され、該当する火山岩がなかなか見つからず苦慮していました。 結局ピンク火山灰については、耶馬溪の火砕岩がそれに対応できることで決着が付いています。
 単純に、どちらが激しいか(爆発的かではない)を示す根拠を問われた場合の真の正解は
「Aの火山灰は九州から大阪まで運ばれてきている」 であって、白っぽいとか有色鉱物が多いとかいうことはおまけのようなものです。風向きによって流されてこなかった場合も考えられますが、 桜島の火山灰は大阪まで(もっと桜島に近いところでも)飛んでこないのは明白です。噴火の映像を見比べ、ピナツボ山と桜島とではどちらが激しいか、 そう考える理由を答えよといわれ、ピナツボ山の火山灰の方の色が白っぽいからと答える人はいないでしょう。
 このような正しい手順による答えを、「マグマの性質」を使って答えよとして、封殺する問題がいい問題とはとうてい思えません。 これが答えに書かれていた場合、指定された用語を使っていないという理由で不正解とできるのでしょうか。
 ついでに問題についてもう一つ付け加えると、わざわざ選択枝を作って解答を選ばさせる必要があったのでしょうか。 「どちらの火山灰を噴出した噴火か、ABで答えよ」ではいけなかったのでしょうか。
問題には他にもどうかなというところがいっぱいあります。そういうところをチェックしてみてはどうでしょうか。

※1914年の噴火(大正噴火)では、火山灰が大阪まで届いたようです。しかし、地層として残るほどの量ではありませんでした。



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