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散歩道の宝物



ドラゴンホール(竜のかまど)
ドラゴンホール
鹿児島県南九州市頴娃町番所鼻

 地面に直径が20mほどで深さが5mくらいの大きな穴が開いています。 穴の底の方は広くなっていて、今ではあまり見かけなくなったかまどを上からのぞき込んだようです。 この場所は、その大きさと形から竜の竈(かまど)と呼んでいます。ドラゴンホールというのは見た目のまま英訳したのでしょう。
 かまどの表面にあたる部分を見てみます。表面はわりと滑らかで、しっかりとした岩石でできていているのがわかります。 特に深い溝のようなものとかは見えませんから、大きな岩石が浸食で削られたのではなく、 上にあった柔らかい地層が浸食ではぎ取られて残されたもののでしょう。 表面には丸い形のひび割れのようなものが不規則に入っています。典型的ではありませんが、柱状節理を上から見たときの形に似ています。 かまどを作る岩石は、厚さが1〜2mほどで、そのままの厚さで奥の方まで続いているように見えます。
 かまどの中部を見てみます。中の方が広くなっています。ここも浸食によって削り去られたようです。こ部分の岩石も柔らかいのでしょう。 海岸近くの岩の上に立っていると、波の動きにつられて岩の隙間から空気が吹き出してくるところが所々にあります。 岩の下の方では、すき間を通ってきた海水が波の力によって動きまわり、岩石が削られてなくなってすき間ができていることがわかります。 かまどの底には、壁を作っているのと同じ質の岩石が散乱しています。 これは、かまどの空いた部分にあった岩石が下に落ちて残されたものでしょう。
竜のかまど遠景  竜のかまどを遠くから眺めてみることにします(右写真)。向こう側の岬の岩が一段高くなったところに竜のかまどはあります。 岩石の表面は大きく波うっているのがわかります。尾根のように高くなったところは陸となって、海に突き出して岬を作っています。 逆に谷のようにへこんだところは、入江となっています。 波うっているのは岩石の表面だけではなく、岩石自体もそうなっているのでしょう。 波うちかたはかなり不規則です。そのまま昔の地表面を見ているようにも見えます。 岩石ができた後の地殻変動で変形したのではなく、なだらかな地形の上にふんわりとたまってできたのでしょう。
 ところで、かまどを作っている岩石は何なのでしょうか。柱状節理がある事から、溶岩のように思えます。 溶岩だとすると、これだけ薄くて広くなるのはかなり流動性の高いものと考えられます。 そうなると、地形の高いところには流れず低い所にばかり集まっていきます。溶岩ではなさそうです。 たまり方からすると火山灰のようにも見えます。火山灰で柱状節理ができるものといえば溶結凝灰岩があります。 この付近一帯に火砕流が流れてきて、地層としてたまり、その底の方が熱で溶けてかたまり溶結凝灰岩になったのでしょう。 この火砕流は、阿多カルデラができたときのものとされています。

 龍のかまどができるまでをまとめてみます。今から10万年ほど前は、薩摩半島南部はなだらかに起伏した大地が広がっていたと考えられます。 この頃に、錦江湾南部を中心とした火山活動が活発になります。大量の火山灰などがこの付近一帯に降り積もっていったようです。 錦江湾南部の火山活動は引き続いて大規模なカルデラ噴火を起こします。噴火にともない周辺地域に火砕流が流れてきます。 阿多火砕流です。この時できた堆積物の下部2mほどの部分は溶結し、固くなります(溶結凝灰岩の形成)。 上部には厚い火砕流堆積物(非溶結部)がのっています。
 最近の地殻変動によって、溶結凝灰岩が海面とほぼ同じくらいの高さまで移動してきます。 波の浸食力によって、火砕流堆積物の非溶結部は削られてなくなり、溶結凝灰岩の上面がむき出しになります。 溶結凝灰岩の下面が海面より少し高くなっているところでは、岩の隙間を通りぬけた波によって下にある岩石 (初期の火山噴火堆積物:解説には25万年前の火砕流堆積物と書かれている)が削り取られてなくなっていきます。 このようにしてできた空洞がある程度大きくなると、天井となってる部分が崩れ落ちて大きな穴が開きます。 竜のかまどの完成です。下にでき方を紙芝居風の図で示します。

ドラゴンホールできかた
1.なだらかな丘陵が広がっていました           

 


 このようにしてみると、同じような条件で大きな穴が開いているところがあるように思えてきます。 周辺に似たようなものがないか探してみることにします。 波うった固い岩石の層が、下にある柔らかい岩石の層が削られたために中央部が落ち込んでてきた穴をドラゴンホールとして見ていくことにします。

すぐ横の海岸近くにあったものです。
鬼のかまど(小)
 直径は2mくらいと非常に小さいものです。 波の力で岩石がはぎ取られただけのようにも見えます。近くにある竜のかまどを見ると同じようにしてできたものと思えてきます。 実際の所はどうなのでしょうか。底の岩質は柔らかそうな感じがします。


番所鼻公園海の池
番所鼻公園海の池
 番所鼻公園の中心にあるのが海の池です。直径が100m近くある非常に大きなものです。 コンクリートで道が整備されているので、人工的なもののに見えますが、自然にできたものです。 道は「竜宮の道」といい、波の穏やかな干潮時には歩いて一周できます。
 竜宮の道から外側に向かって岩石の表面は傾斜して(低くなって)います。 全体的に大きいのと形がいびつなだけで構造は竜のかまどそっくりです。ここのものもドラゴンホールとしているようです。


番所鼻公園タツノオトシゴハウス南西の鼻
番所鼻公園ドラゴンホール
 海に向かって幅約50m長さ100mほどの長方形の形に穴が開いています。 一番海側の縁は崩れ落ちてなくなり湾のような形になっています。
 手前の岩石を見るとあまり滑らかにはみえないのですが、海の中に伸びる岩場付近の岩石の表面は滑らかで海の方に向かって緩く傾いています。
 ここと海の池の間にも大きなドラゴンホール状の穴が見られます。海の池の一部なのかそれとも別のものかの判断は難しそうです。

※鼻というのは、海に突き出した陸地のうち岬ほど大きくないものをいいます

番所鼻公園垣瀬浜
番所鼻公園垣瀬浜のドラゴンホール
 ここのものは、入江の奥から陸側に上がっていくところの斜面にできています。 幅が20mほどで、長さが80mくらいの細長いいびつな形をしています。 他の所のものと違うのは、できた後運び込まれた砂によって底の方が埋められていることです。 崩れ落ちた岩もたくさん残されているようです。
 東側の縁は砂が被さっていてどこまであるのかがはっきりしません。 手前側の半分砂に埋まっている岩は、崩れ落ちていないのか、となりのものと一緒に並んで落ちたものなのかはこれだけではわかりません。


頴娃町釜蓋神社南東の鼻
釜蓋神社南東のドラゴンホール
 釜蓋神社がある鼻の東隣の鼻の先です。先端が二股に分かれているように見えます。 その沖合の波の砕けているところを見ると、いくつかの岩礁が二股の先をふさぐように並んでいるのがわかります。
 周囲から盛り上がったところに直径が50mほどの穴があるようすは他のドラゴンホールと同じです。 違っているのは海側の縁が波の力によって完全に崩れ去っていることです。


 番所鼻公園(海の池)から釜蓋神社にかけて、約2kmの海岸沿いにはシーホーウォークという遊歩道が作られています。 この道全体を調査したわけではありませんが、ざっと見ただけでこれだけのドラゴンホールが確認できました。 空中写真で見るとこの区間だけでなく枕崎市にかけての間にも、他にいくつかそれらしいものを見ることができます。 ドラゴンホールができている頻度は番所鼻公園から釜蓋神社の間が高いようです。

南さつま市丸木崎展望所
丸木崎展望所からのドラゴンホール
 丸木崎展望所の西側に見える岬(丸木半島?)の中程の所です。二つのドラゴンホールがあるのがわかります。 大きい方は幅100m奥行き50mくらいで、小さい方(右手前側)はその3分の1くらいの大きさです。 どちらも海側の縁は欠けています。
 空中写真で見ると、枕崎市街から西側はドラゴンホールは一部を除いてできていないようですが、 この丸木崎展望所付近では他にもいくつか見られるようです。 火砕流発生前の地形の起伏や、波の強さなどもできるかどうかに関係しているのかも知れません。


長崎県壱岐島鬼の足跡
壱岐島鬼の足跡
 鬼が鯨を捕るときに踏ん張ってできた足跡と
されています。もう一方の足跡は北隣の辰の島
にあります。
 壱岐島の南西海岸にある長さ50m幅20m深さ30mほどの大きな穴です。 ここのものは周辺の地面が平坦です。平に浸食された後隆起してできたものです。 表面のでき方が違うので、ここのものはドラゴンホールとはいえないでしょう。
 底の部分は、トンネルによって海につながっています。元々あった海食洞の天井が崩れ落ちてできたようです。 崩れ落ちた岩は、波によって運び去られてしまっています。 海面近くの高さの所が大きく削られています。このあたりの岩石は柔らかく、トンネルの天井部、橋になっている部分は固い溶岩でできています。
 海面近くに柔らかい層があってその上に固い層がある場合、地面に大きな穴ができる例としてあげておきます。



参考文献:かごしま お茶の間の地球科学 鹿児島県教育地質調査団著 南郷出版 1981年7月発行
2018.01.30





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