台風とは、北太平洋西部で発生する熱帯低気圧のうち、中心付近の最大風速が17m/s以上になったものをいいます。
発生場所や、風速の大きさによって、ハリケーン、サイクロンなどさまざまな名前がつけられています。その構造を考える場合、
発生場所や風速は北半球にある限りあまり関係がないので、さまざまな名前で呼ばれているものを、 ここでは一括して台風ということにします。
台風に吹き込む風はどのようになっているか、その後どう流れていくのか、調べてみたのですが、書かれている説明では何となくしっくりきません。
ひまわりの連続雲画像を動画にしてみたり、といろいろやっているのですが、細部まで識別できないので納得のいく結論に達していません。
今までにわかったこと、考えたことをまとめてみることにします。
一般的にいわれている台風の構造と風の流れ
北半球では、低気圧に風は左回りの渦となって吹き込みます。台風にもこのような渦が見られますので、
左回りの渦となって風が吹き込んでいるのがわかります。このことは天気図を書いてみたり、台風接近時のアメダスの風向データを見ても確認できます。
吹き込んだ風は、中心付近で上昇気流となり昇っていきます。この時に雲が作られ、潜熱が放出されるので、空気が暖められ、
上昇の勢いを増していきます。そのため、上昇気流が維持され、さらに周囲から空気を引き寄せる原動力となります。
吹き込む風は、台風の中心に近づくにつれ遠心力が大きくなって外側に振り飛ばされるので、中心に入れなくなります。
そのため中心部では、風が弱く、わずかな下降気流により天気がよい領域である台風の目ができます。
上昇した空気は、その行き場がなくなるため周囲に吹き出すようになります。吹き出し始めは、回転の勢いで左回りに回っていますが、
回転半径が大きくなることと、転向力の影響で右回りに吹き出すように変わっていきます。
補足1a;台風上空中心近くの風の向きを半時計回りに書いています。時計回りに書いている図面も多く見受けられます。
上空での台風の風の吹き出し
台風が起こす風の流れがどのようになるか興味があって、調べたことがあります。台風が南方海上にあるときに、
気象衛星からの雲画像を順番に並べてみたのですが、何とも判断が付きません。処理をした画像から検討してみることにします。
右図は、2005年8月31日午後9時の「ひまわり」の雲画像から、午後7時半の雲画像の明るさを引き算処理させたものです。
台風の中心の位置が重なるように、2枚の図はずらせています。新しく雲ができたところや発達したところは白く、
雲が消えたところは黒くなります。白い点と黒い点が並んでいるところでは、白の方に雲が移動しています。
赤外画像ですので、上空の雲をとらえています。
この時石垣島南方に935hPa の台風13号があって西北西に20km/hの速度で移動しています。
図からは、宮古島付近の雲が消え、沖縄本島付近の雲の渦は発達しているのがわかります。
この部分で雲はどう移動したのかはよくわかりません。東経130度線の東側と、中国大陸の雲は明らかに南側に移動しています。
図を重ねるときに、中心をどこと判断するかによって、図の様子、雲の見かけの動きは変わってきます。これだけでは判断しづらいようです。
動画にして見ても状況はあまり変わりません。半径200km以内の雲は左回転、200〜400kmの雲は外に広がるように、
400km以上の雲は右回転している様に見えないこともありません。中心が移動しているのでそれとの相対的な動きが見分けにくくなっています。
動きの遅い台風があればいいのですが、そのような台風の資料はまだ手に入れていません。
ひまわり画像から作った台風の雲の動きの見られるサイトについて(補足1b)
重要な気象案件がありそうなところは、機動観測として動画が作成されています。台風が接近した時にはその台風の雲の動きを見ることができます。
ひまわり8号リアルタイムWebから、日付を変更するとその日の起動観測動画を見ることができます。ただし可視画像です。
動画サイトアドレス:https://himawari.asia/himawari8-movie.htm
気象庁のサイトにも台風接近時の雲の動きを示した動画があります。昼間は可視画像で夜間は赤外画像と切り替えて表示されます。
気象庁の台風動画ページ:https://www.jma-net.go.jp/sat/himawari/obsimg/image_typh.html#typh
ウェブページは2020年9月に閲覧
どう評価するかは難しいようです。感じたことを書きます。
雲の動きを見ていると、突然雲が外側に広がるように見えるときがあります。
見たとおりの現象が起こっているのか、下から雲が湧き上がって来たためにそのように見えたのかは判断がつきません。
この時、広がっていく領域から外側に向かって放射状に細い筋が何本も伸びていくことがあります。回転しているように見えません。
その後この雲はゆっくりと時計回りに回転していくようです。このような変化が見られるのは台風の中心から500kmくらいより遠いところです。
これは単なる思い込みかも知れません。本当にそうなのか確かめてみてください。(補足1b終り)
上空の風のながれ(補足1c)
気象庁は国内33カ所の測候所(2020年9月現在)で上空の風を測定しています。観測装置はウインドプロファイラーといいます。
右写真は南大東島にあるその装置です。
原理は上空5つの方向に向けて電波を飛ばし上空から散乱されてくる電波を利用して測定するものだそうです。
水平方向とドップラー効果を利用して垂直方向の動きもわかるようです。
2020年9月5日から6日にかけて台風10号が南大東島に接近した前後10時間ほどのウィンドプロファイラーの記録です。
もっとも近づいたのは、6日0時過ぎで、西方30kmほどの海上を通過しました。
ひまわり画像を見る限りでは台風の眼には入らなかったようです。
縦軸が高度、横軸が時刻です。矢印の向きは方位を示していて、長いものほど強い風を示します。
色分けは、暖色系が上昇流、寒色系が下降流を示します。強いほど濃い色で示されています。
降雨も拾ってしまうためほとんどのデータは下降流になっています。白く抜けているところは精度の良いデータが得られなかったところです。
気象庁ページ(http://www.jma.go.jp/jp/windpro/47945.html)の図をつなげています。
図からわかるのは、同じ時刻では地上近くから上空までだいたい同じ方向の風が吹いているということです。
風向きが変わるときは一斉に変わっています。
この時間内で、台風がもっとも遠くにいたときで150kmくらい離れていました。
少なくとも、半径150km以内では、地表付近から12kmの高さまでは一様に同じ向きの風が吹いていることがわかります。
おまけ:風が東風から南風→西風に変化していることから台風は西側を通過したことがわかりますね。
(補足1c終り)
高層天気図からわかること
台風の上空で風が吹き出しているのなら、そこは高気圧になっているはずです。それでは、台風の上空どれくらいの高さで高気圧になるのでしょうか。
右図は2013年7月10日9時の地上天気図(左)と200hPa(高度12500m)高層天気図(気象庁より)を並べたものです。
地上で1008hPa等圧線の内側では、高度12500mでも左回りの渦になっていることがわかります。これは低気圧があることを意味しています。
この付近の圏界面高度は200と150hPaの間ですから、台風の上空は対流圏内ではどの高さでも低気圧と見なせます。
この時の高層天気図では、さらに外側では右回りの渦になっていますので、台風の圏外では高気圧になるのかも知れません。
それよりも、上空に高気圧ができていると考えてみることにします。その周囲の風はどう吹くのでしょうか。
一般に、上空の風は、等圧線に沿って吹いていると考えます。高気圧の周囲では右回り(北半球)に回転します(傾度風)。このままでは、
高気圧から外側に吹き出すことはできません。逆に、最初に載せた台風の構造図のように吹き出しているとしたら、
中心から外側に、何本ものS字型に曲がる等圧線が広がっていくという変な天気図になります。もちろんこんな天気図になることはありませんし、
なっていません。このことからも風の吹き出しはないように思えます。
地表付近で集まった風はどこへ
そもそも、上空の風の吹き出しを考えないといけなかったのは、地表付近で集められ上昇していった空気の行き先が必要だからです。
それでは、どこに行くと考えたらいいのでしょうか。
台風が集める風の特徴は周囲より暖かいことです。暖かいとそれだけ高く上昇していくことができます。台風の領域が上に広がります。
同様に周りにも広がると考えたらどうでしょうか。つまり台風が大きくなるのです。吹き込んだ風が風船を膨らますように、
台風を膨らましていくのです。このとき、風船の輪郭が広がっていくように、等圧線も広がっていき、それに伴って風も外側を回るようになります。
わずかにですが吹き出したようにも見えます。台風の構造図の風と違うのはこの時の風は左回りであるということです。
このように考えるとしても、話が合わない感じがします。それは、地表付近でものすごい勢いで風が吹いているので、これが上空で集まったら、
台風はいっぺんにパンクしてしまいそうな感じがすることです。
地表付近で風はどれくらい吸い込まれているか
上空の風の吹き出しを考える元となった、地表付近で吹き込む風がどれだけあるを考えてみることにします。
地表付近の風は、等圧線に対して陸上では20〜30度、海上では5〜15度の角度で吹く(地上風)といわれています。
ところで、実際に台風の天気図を書いてみると、台風の近くでは等圧線に対して風向はほとんど平行のように見えます。
等圧線に対する角度はもっと小さく、単にぐるぐる回っているだけのように見えます。10度で吹き込んでいるとして、
風速の17%の速度で吹き込むことになります。風速30m/sの暴風でも5.1m/sで、小学生のダッシュぐらいの速さです。
あまり急速に吹き込むとはいえません。
台風接近時のレーダー画像を見ても、降水域は回転しているだけで、中心部に吸い込まれているようには見えません。
高さ数100mでは、風の吹き方は傾度風に近くなっていて、等圧線に平行になります。
雨雲のできる高さでは風が台風の中に入っていくことはできません。レーダー画像が回転している様に見えるのはそのためです。
台風に吹き込めるのは、地表付近のわずかな高さの範囲だけです。しかも、まっすぐはいるのではなく、真横に近い角度で入っていくので、
いくら風が強いといっても、中心に近づいていく量はほんのわずかです。台風全体で、吹き込んでいる向きだけを考えたとき、
その風の量は上空で吹き出さないといけないほど多くはないようです。台風がすぐにパンクしない原因も、このためなのでしょう。
単純に計算してみることにします。30m/sの暴風圏の半径が200kmとします。この半径のところの風は中心に向かう成分は約20km/h
(5.6m/s)とします。風が内側に入れる高さは100m(0.1km)までとして、1時間に吹き込む風の総量は、
2×200π×0.1×20=800πkm
3です。
これが暴風圏内の圏界面を押し上げるとしてその高さは、面積で割って
800π÷(200
2π)=0.02km=20mです。
圏界面の気圧が地表付近の5分の1(空気の体積が5倍)として、1時間で100m上がる計算になります。
実際の台風の大きさは、暴風半径より大きいのがふつうです。これより小さいと見ていいでしょう。また、
暴風圏が大きくなれば、 その大きさに反比例して大きくなる速度は遅くなります。
目ができるわけ
台風の中心部には、風がほとんど吹いていなくて、比較的天気のいい領域があります。これが、台風の目です。
「台風の構造と風の流れ」のところで、説明したように、遠心力で風が中に入り込めないからできるといわれています。
ところが、実際には台風のほとんどの領域で風が中に入り込めなくなっています。地上風の関係で入り込めると主張できるとしても、
今度は、目の縁でも同様に、地表との摩擦で風が弱められその分遠心力が小さくなり、中に入り込める事になります。
目ができる説明として不十分です。台風に目ができる理由が別にありそうです。
台風の中を上昇していく大気を考えてみます。どこまで上昇できるのでしょうか。対流圏の最上部、圏界面の高さでは、上昇した空気の気温は、
その高さにある空気の気温より高くなっています。従って、さらに上の成層圏にまで入っていくことができます。
実際には、圏界面を押し上げるような感じで昇っていくことができます。
成層圏内は上空ほど気温が高くなっていますので、上昇する内に成層圏と同じ温度になる事があります。このようになれば上昇は終わりです。
この時の断面図を書いてみました。薄青色が対流圏の大気、薄緑色が成層圏の大気、薄赤色が台風内部を上昇する大気です。
上昇した大気がそれ以上昇れなくなると、頂部はその高さでそろいます。この高さでは、気圧が等しいと考えてみます。
等圧線を青線で示します。ここではまっすぐ横に引けます。
次に、少し低いところを通る等圧線を考えます。気圧は上にある大気の重さと同じですから、上下の等圧線の間にある大気の重さは同じです。
台風の中を上昇した大気は暖かいので、体積は大きく、その分だけ幅が必要です。下側の等圧線はフライパンのように曲がります。
図をひっくり返してみるとよくわかります。膨らんだ分だけ厚くなります。さらに下側の等圧線を考えてみると、
もっと大きく変形し鍋のような形になります。高層天気図では、等圧線が低くなっているところを低気圧と考えます。
空気の温度の違いだけで低気圧が作られていくことがわかります。フライパンや鍋の縁のところでは、等圧線は内側に向かって低くなっています。
このようなところでは内側に大気を押し出そうとする力(気圧傾度力:図中矢印で示した)が働きます。その結果大気は左回りに回転していきます。
鍋の底にあたるところでは、同じ高さでは同じ気圧になっています。
このようなところでは風は吹きません。うまくいくと、成層圏の乾燥した大気が、雲を蒸発させながら降りてくることもできます。
そうなるのなら、そこには天気のよい領域ができます。これが台風の目とは考えられないでしょうか。
このモデルでは、台風の目の大きさに比べて、台風そのものが非常に小さいように思えます。中心付近だけではなく、
周辺部でもたくさんの上昇気流が起こり雲を作ることによって、台風を大きくすることはできます。
台風の勢力はどのように維持されるのか
台風のエネルギー源は大気中の水蒸気が持つ潜熱だとされています。そのため台風の勢力を維持するためには潜熱の放出が必要だと考えます。
水蒸気から雲や雨が作られる時に放出されるのが潜熱ですから、台風に伴って大量の降雨が起こることになります。台風によって大雨が降ることは、
こういった関係から説明されます。
ところで、台風は雨台風と風台風といった分け方をされることがあります。雨による被害より、風による被害の方が大きなものが風台風、
その逆に、雨による被害が大きなものが雨台風です。
1991年の台風19号は典型的な風台風とされています。
降雨量の記録はなみの台風とさほど変わらなかったのに、最大風速の記録は各地で塗り替えられました。
そのため、雨による被害はそれほどでもなかったのに、風による被害は大変なものでした。鉄塔の倒壊があったり、
東方各地で収穫前のリンゴの落果といった被害がでました。西日本では、海水のしぶきが内陸40〜50kmまで運び込まれ、植物を枯らしたり、
雨が降らなかったため電線に海水の塩分が付着し電流がショートがすることによって長期にわたる停電が多発しました(塩害)。
このような風台風が維持されるのは、その状況から考えて、絶えず潜熱が放出されているためだというように考えることはできません。
なぜなら、雨が少ないからです。上空で風の吹き出しがあると考えると、その風によってせっかくのエネルギーが運び去られてしまいます。
風台風のエネルギーはすぐに尽きてしまいます。貯めたエネルギーは、吹き出しによって運び去られず、ずっと蓄えられたままだと、
風台風を長時間維持することができます。
このことからも、上空での風の吹き出しはないと考えた方がいいようです。
以上の話を頭に入れながら、次の問題を解いてみてください。
第4問 大気と海洋に関する次の問い(A・B)に答えよ。
A 低気圧に関する次の文章を読み、下の問い(問1〜4)に答えよ。
低気圧には温帯低気圧と熱帯低気圧がある。温帯低気圧は中緯度で発生する。中緯度の対流圏上部では強い[ ア ]が吹いており、
この流れの蛇行が温帯低気圧の発生・発達に関係している。また、
(a)発達した温帯低気圧は前線を伴っている。
一方、熱帯低気圧は低緯度で発生し、[ イ ]するときに[ ウ ]する熱を主なエネルギー源としている。また、熱帯低気圧は前線を伴わない。
問1 問2 −− 中略 −−
問3 熱帯低気圧のうち、北太平洋西部で最大風速が17m/s以上になったものを台風と呼ぶ。
発達した台風について述べた文として最も適当なものを、次の(1)〜(4)のうちから一つ選べ。[ 21 ]
(1) | 台風の目のまわりには発達した層雲が広い範囲で観測される。 |
(2) | 台風の目のなかでは、強い上昇流と強い雨が観測される・ |
(3) | 対流圏上層では、風が時計回りに渦巻きながら台風の中心付近から外側に向かって吹き出している。 |
(4) | 対流圏下層では、風が時計回りに渦巻きながら外側から台風の中心付近に向かって吹き込んでいる。 |
問4 −− 以下省略 −−
2013年度のセンターテストの地学Tの問題です(一部HTM化するためいじっています)。(1)(2)(4)は明らかに間違っている事がわかります。
よって、正答とする選択肢から除外できます。理由は以下の通りです。
(1)台風の目のまわりにあるのは積乱雲です。層雲は温暖前線にできます。
(2)目のなかは風や雲がなくほとんどの場合晴天です。強い上昇流と強い雨が観測されるのは目のまわりです。
(4)北半球にある北太平洋上の台風に吹く対流圏下層の風は反時計回りです。
消去法で答えは(3)にするしかないのですが、少し引っかかります。出題者は、最初に書いた台風の構造図を意識していると考えられます。
地学Tの教科書を調べてみたのですが、5社中3社の教科書には上空の風の吹き出しについては触れられていませんでした。
必ずしも教えなくてよいことを出題するのはどうかと思います。また、その結論が考察して導き出されるようなものでないことは、
ここに書いた内容から明らかです。ずっと考えてきたことが妄想だったというのでしょうか。
少なくとも対流圏上層(高度12500m)でも風は反時計回りです。
上空で台風から吹き出す風がどのようになっているかについて、前々から調べていたのですが、 結論が出ないうちに、
このような問題が出題されました。もともとは「台風の構造」というタイトルで書こうかなと考えていたのですが、
「上空の風の吹き出し」を主眼に置かなくないといけなくなり、まとまりがなくなってしまいました。
内容自体も、考えがまとまっていない上に、掲示資料の準備が間に合わず、まだまだ検討の余地は残っています。
2013.2.12掲 載
7.21加 筆
2020.9.20補足1