巨大なハート型をした岩です。周囲がふつうの岩の色(?)なのに対して真っ赤な色をしているのがものすごく目立ちます。
高さは250mもあり、東京都庁舎よりちょっと高いくらいです。父島の南端にある円縁(まるべり)湾の東側のへこみにできています。
どのようにしてできたのかが気になります。ここからはしばらく、小笠原ビジターセンターのパンフレット、「小笠原諸島の地質7 父島千尋岩」
(金沢大学 金山恭子監修 2014年2月発行)の受け売りで書かせてもらいます。
「♥」の下半分に注目します。両脇の崖、下から高さ3分の1位のところに少し明るい筋が見えます。左側は手前の島と重なっていますので、
注意してみてください。この筋を境にして、上と下では岩石の種類が少しちがいます。
ところで、「♥」の中の岩石は、両脇では上にあった岩石と同じものだけでできています。
さらに、明るい筋は底の方にみえています(ずっとガスがかかっていてよくわかりませんでした)。
このような、筋や岩石がいきなり途切れて別のところに現れるのは、断層があると考えられます。
岩石の分布から見て、「V」の部分にそれぞれが別の断層が通っています。
小笠原では、岩石が風化すると酸化鉄を含んだ赤っぽい土ができ、これが流されてきたため崖が赤く染まりました。
補足をします。亜熱帯では岩石が風化するとアルミニウム・鉄を主成分とする赤い色をしたラテライトという土が作られます。
近くでは、高山からジョンビーチに向かう遊歩道で見ることができます。母島のすり鉢までいくと、みごとに赤くなった土を見ることができます。
ただ、赤土がこのまま流されてきても、崖の表面にはとどまらずに流れ落ちてしまいます。周囲の崖が赤くなっていないのはそのためです。
岩石を見ていると、ちょっとしたすき間に地下水に含まれるいろいろな成分が集められ、濃い色の筋となって見られることがあります。
ハートロックの赤い色もこれと同じで、すき間に流れ込んだラテライトの成分が次第に濃集し固まっていったものと考えられます。
これほど巨大なすき間となると断層の面上にできるすき間を想定する必要があります。
断層を調べるため、
産業技術研究所地質調査総合センターの地質図を見ることにします。、
ハートロックの壁面をかすめるように、まっすぐ西北西方向(南袋沢奥−高山山頂北端−ブタ海岸南方)に延びる断層が書かれています。
地形図でも、断層に沿うリニアメント(
リニアメントについてはここを参照)が確認できます。
このような場合どうなるか、図を書いて確認することにします。
海岸線に沿ってまっすぐに切り立った崖があるとします。それを四角く切り抜いたのが右図です。
この時の崖の表面は青い四角枠(底辺は緑色)で表されます。
崖の面からかすめるように左奥に入る断層A(赤線)と、右斜め奥に入る断層B(赤線)があります。
断層Aの面はまっすぐ立っていますが、断層Bは右に倒れています(左傾斜)。
図は、断層Aと断層Bの交線が崖の上端に接した状態で書いています。
この時に断層面の手前に石の板があるとして、 力を加えたときにどのようにヒビが入って割れるかを考えることにします。
石が薄いときは簡単に割れます。また、多少分厚くても細長いときも簡単に割れます。
崖があるときに加わる力で大きいのは、重さなので高くなるほど壊れやすくなります。
実際には、かなり複雑なのですが、一番単純化すると、高さが高くなるほど厚くなっても崩れ落ちるといえます。
その境界面を緑色で示しています。この面より断層面が手前にある場合は、手前側の岩石は崩れ落ちます。
図では、赤く塗った部分になります。「V」字型に崩れ落ちることがわかります。
断層に沿って地表面は削られやすいので、小さな谷ができます。もともと、図の右半分に小さな高まりがありました。
元々の地面より下の部分を少し濃いめの赤で塗ってみました。ここが赤く見えるようになった場所です。
つまり、ハートロックの表面は元々断層面で、その面に沿って手前側にあった岩石が「V」字型に崩れ落ち、
断層面にしみこんだ赤い土が露出するようになったものです。 上側は地表の形を反映して「♥」型に見えるようになりました。
背景は母島御幸之浜の貨幣石含有層です
2014.08.03