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地震後の地盤変化と津波

東北地方太平洋沖地震で生じた地殻変動
 20011年3月11日、東北地方太平洋沖地震が発生しました。この地震の被災者救出を困難にした原因の一つとして、 同時に発生した大津波の水がなかなか引かなかったことがあげられます。直後の衛星写真を見ても、海岸沿いの平野部に、 大量の海水が残されているのを読み取ることができます。元々このような低地は堤防などの高まりによって囲まれているため、 中に溜まった水はポンプなどで強制的に排水しないと外に出て行くことはできません。堤防の切れ目など自然にできていた排水溝も、 漂流物が詰まることによって能力が低下していると考えられます。
 さらに現地の映像などを見ていて感じるのは、地面が沈降したのではないかという疑問です。比較的開口部の大きな潟湖の周囲に、 水域が広がっていることから推定できます。報道でも、地盤が沈降している解説がなされていました。その後、 GPSなどの測定結果が報告されるようになると、実際に震源の方向に移動するとともに、最大値が牡鹿で120cmに達する沈降の様子 (http://www.gsi.go.jp/common/000059674.pdfを参照)もわかってきました。

地震後海岸地域で沈降する原因
 それでは、どうして海岸沿いの地位が沈降したのでしょうか。地震の発生原因から考えてみることにします。一般に報道されているように、 海溝で発生したものです。沈み込む太平洋プレートに、日本列島を載せた大陸プレートが引きずられ次第に変形していき、 大陸プレートの変形が限界に達したときに、プレート間の摩擦力を打ち破り、元に戻ろうとして地震が発生します。
 この時、よく見かける図は海洋プレートの引きずりによって、大陸プレートが曲がるように変形している図を見かけます。 実際には、プレートの沈み込み角度は非常に小さいので、どちらかというと圧縮されていく様に変形していきます。 そのため、海溝から大陸側に150から250km離れた地点では、プレートがぶ厚くなるように膨らみ、地盤が徐々に盛り上がっていきます。 その後、地震が発生すると膨らんだ分が元に戻るために見かけ上沈降したように見えるのです。
大陸プレートの変形と地震


沈んだ地盤は元に戻るのか
 地盤沈降が起こっているとした解説のあった報道で、今後の予測が述べられていました。高知県須崎市の例をあげていたと考えられるのですが、 沈降量の半分位しか回復しないとのことでした。本当にそうでしょうか。先の図を見る限りでは、膨らんだ分しか沈降せず、 だんだん沈んでいく様子は考えられません。地形を見る限り、高知県土佐湾を通る南北の地域は沈降しており、 足摺・室戸を通る南北の地域は隆起しています。須崎市は、この沈降軸上に位置しています。 経年的な沈降運動が見られる上に、プレートの引きずり解放による上下運動が加わった複雑な地殻変動を起こしているようです。 見かけ上、地震後の沈降量を回復しないまま次の地震による沈降が起こっているように見えます。
 それでは、東北地方の海岸はどうでしょうか。三陸海岸は、リアス式海岸の典型例とされ、これは地殻の沈降によってできたと説明されています。 したがって、この地域では、須崎市と同じように、地震で沈降し、その後隆起するものの、 回復しないうちに新しい地震が発生するということを繰り返すと考えられます。三陸海岸より南側の地域では、 隆起しているのか沈降しているのかは地形からはっきり読み取ることはできませんので、今後の推移を見守るしかないでしょう。

引き波から始まる津波
 海溝で発生する地震では、ふつうに津波をともないます。大陸側のプレートが引きずり込まれ曲がっているのであれば、 跳ね返りで、海底が持ち上げられるため、最初の津波はすべて盛り上がりからなる津波(押し波)になるはずです。 ところが過去の地震津波の例を調べてみると、始まる前に海水が大きく引いたという例が多く知られています。 例えば日本海中部地震やスマトラ地震などです。引いた波に取り残された魚を捕りに行って津波に巻き込まれたというような話が伝わっています。 東北地方太平洋沖地震でも、牡鹿半島付近をのぞいて、福島県から岩手県の海岸では引き波から始まった事がわかっています。
 先ほどの図を見ると、海岸付近や少し沖合では、地震発生とともに海底面が急激に沈降しています。この付近の海では沈降にともなって、 引き波の津波が発生します。ここで発生した津波は海溝の盛り上がりで発生する押し波の津波より、海岸に近い分だけ速く伝わってきます。 つまり、震源域の内陸側では、津波が来る前に海水が引くという現象が見られることになります(これだって津波です)。
 ところで、金華山付近では押し波から始まったのはどうしてなのでしょうか。この付近で観測された地震による地盤沈降量が、 最大であったこととあわせて考えてみると、牡鹿半島が沈降軸の中心に近く、地盤沈下の効果が大きく出た上に、 海底が下がると同時に海面も下がり、そこに周囲から海水が集まって来る場所であったようです。
 青森以北や茨城以南では、地震で発生した押し波に比べ、引き波の効果が小さく、時間的にも差違が生じなかったため押し波から始まっています。

まとめ
 海溝型地震が発生すると、震源域の海岸付近やその少し沖合では大きく沈降することがある。その海岸では、沖合に張り出したところをのぞいて、 引き波から始まる津波がやってくる。



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