扇池は父島の近くの南島にあります。島の中央部は大きくへこんでいて、外洋に近い一カ所に、洞窟のような穴が空いています。そこから海水が入りこみ、
池のような入り江のようなものができています。 南島は、石灰岩でできた島です。
周囲が切り立った大きなへこみは
ウバーレと見られます。ウバーレの底面は海面下にあるようです。
ウバーレは、石灰岩地帯特有の
カルスト地形に見られるものなのですが、一部が海につかっている点で他とは違っています。
そういった点から、
「沈水カルスト」と呼ばれています。
一般に鍾乳洞は、山間部では地下水位面、海岸近くでは海面の高さにできます。南島では海面の高さにできたと考えられます。
鍾乳洞上部の岩盤が崩落してできるウバーレは、その底が海面の高さとなります。ここでは、かなり深いところにあるように見えます。
その後海面が上昇してくれば、ウバーレは海水の池のようになります。
正面に空いている穴は、侵食の進んだ石灰が地帯に見られる
天然橋のように思えてきます。
形だけからすると、
海食洞門のようにも見えます。よれるだけの近くから見た限りでは、
海面のすぐ下は岩がありましたので、どちらかというと海食洞門のようです。
扇池周辺でで目を引くのは、ウバーレを埋める大量の砂でしょう。これだけの砂がどのようにして作られたのかが気になるところです。
普通の陸地では、山から運ばれてきた土砂がたまることがありますが、南島は扇池周辺の凹地に比べてそれほど広くはありません。
このあたりで作られたと考えるしかなさそうです。 小笠原くらいの暖かさだと、奄美大島や沖縄の海岸を見てわかるように、
波の穏やかな比較的浅い海底には、有孔虫や貝、サンゴ、ウニといった生物が殻を残し砂の元を作ります。
奄美や沖縄では、海岸沖合の珊瑚礁が波を防いで、できた砂が流されないようにしています。
南島では、そのような珊瑚礁が見当たりません。その代わりになったのが、扇池を取り囲むようにしてある山ではないでしょうか。
南島には、他にも鮫池などいくつかのウバーレ様の地形がありますが、いずれも外洋に開けていますので、砂の堆積はほとんどありません。
扇池では、海食洞門からかその上の峠のような所を通じて、外洋とつながり、新鮮な海水が絶えず供給されます。周囲の山は石灰岩なので、
殻の元になる石灰分は多かったでしょう。かなりの勢いで、砂の元になるものが作られていったと考えられます。
砂がたまっている高さは、現在の海面より10mほど高いところにあります。砂ができた頃の海面は、これより高かったはずです。
その後、海面が低下あるいは島が隆起(おそらくこちらと思われる)ことがいえます。
ウバーレが作られてから地殻変動のようすを整理すると次のようになります。変動の大きさについては推測値です。
30m以上沈降(入り江のようになる)→砂がたまる→10m弱隆起(砂のたまった凹地:一部に池)
ここの砂の中には、
ヒロベソカタマイマイという陸貝の殻がたくさん埋まっています。
周囲の陸地に生息していたものが流されてきて埋まったようです。あまりにも量が多いので、海の中に住んでいたと思いたくなります。
原生のカタツムリは、雨が降ると、特に夜間に遠出するようです。その時に草地から岩場(道路)にでたものの中には帰れなくなるものがあります。
それが、昼間の日射で暖められ干からびているものをみることがあります。そのような貝殻が風で飛ばされ砂浜に転がり落ちてたまっていったようです。
草地内で死んだものなら雨に打たれて朽ちていくことが考えられますが、砂に埋まることで保存されるようになったのでしょう。
2015.05.10
マイマイについて2015.06.10追記