1.かめ穴とはどんなものか
川底などに丸い穴が開いていることがあります。
窪んでいる形が甕(かめ:水をためておく陶製の容器)を上からのぞいて見た形に似ているので、甕穴(かめあな)といいます。
甌穴(おうけつ)ということもあります。「甌」も甕を表す漢字です。「甌」より「甕」の方が一般的なのでこの文ではかめ穴とします。
現地で使用されているのは甌穴がほとんどです。英語ではポットホールといいこちらの用語を使っているものも多くなってきています。
実際にどんな物をいっているのかを見るために、各地で甌穴とかかめ穴、ポットホールと解説されているものなどを紹介します。
これはかめ穴だろうというものも含めてのせます。
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秋田県男鹿市潮瀬崎
男鹿半島の潮瀬崎の海食台上にあるかめ穴です。海が作る波によってできたものです。いくつか並んでできています。岩石は砂質泥岩です。
中に小石が入っています。角張ったものが多いようです。
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岩手県一関市厳美渓
一関市を流れる磐井川が山間盆地を深く削ってできたものが厳美渓です。
そこの岩肌を削ってかめ穴が作られています。岩の上面や川底に多数見られます。
現地解説文にも多数のかめ穴が見られると書かれています。
岩石は溶結凝灰岩です。
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福島県金山町滝沢川
只見川の支流の滝沢川にできています。谷が広いところにぬける所から上流部にかけて見られます。
上流部に小さなもの、下流部には大きなものが分布しています。最下流部のものの写真です。
現地解説文にはできはじめから終わりまで1ヵ所で見られる珍しいおう穴群で東北で最大規模と書かれています。
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群馬県沼田市吹割の滝
吹割の滝の上流には広い河床があって千畳敷と呼ばれています。現地の説明にはここに甌穴があると書かれています。
千畳敷のものは確認できなかったのですが、滝の写真を見直していると滝の上段に甌穴様の窪みができているのを見つけました。
岩石は溶結凝灰岩です。
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東京都八丈島三根ポットホール
八丈島三原山東部、コン沢林道から東白雲山への登り口にあります。散策のための遊歩道が設けられています。
20−50cm程度の小さな滝壺がたくさん並んでいます。区間距離あたりの数は全国有数だそうです。
斜面の傾斜角度や障害物、水の流れの速さによってできるところとできないところがあるようです。
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和歌山県古座川町滝ノ拝
和歌山県古座川の支流小川にあります。
細い滝の上面は平らになっていて、そこに細長く曲がりくねりながら深く削り込まれたような溝がたくさんできています。
溝に沿って、丸いくぼみもいくつか見られます。この溝は、かめ穴がつながってできたと書かれている文献もあります。
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兵庫県加東市闘竜灘
兵庫県播磨地方を北から南に流れる加古川の中流にあります。
「灘」と名がありますが、河床全体に200mに渡って岩盤が露出し、滝ができたり流れが速くなっているところです。
この岩盤の上流側、水に浸かるか浸からないかというところに密集してできていました。岩石は有馬層群(溶結凝灰岩)です。
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兵庫県三木市久留美
加古川の支流である美嚢川にあり、美嚢川(みのがわ)の歐穴として知られているようです。
情報源は、加古川水の新百景
(2022.8.13閲覧)です。
凝灰岩層の表面にできています。
東久留美橋(潜水橋です)の近くだけに見られること、形が整いすぎていることから、橋の柱穴のようにも見えます。
甌穴を利用して柱穴を掘ったということも考えられます。
−ブログ1
ブログ2−
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島根県奥出雲町鬼の舌震
島根県奥出雲町を流れる大馬木川の川底にできているものです。岩石は花こう岩です。
ここ以外にもかめ穴様の窪みはたくさんあります。全体的に岩石が不思議な削られ方をしています(後述)。
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岡山県鏡野町奥津峡
岡山県を南北に流れる吉井川の上流部にあります。渓谷となっている川底や岩の上に10数個ほどあるそうです。
ここのものは、きれいな丸い形をしたものが多いようです。岩石は花こう岩です。
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徳島県つるぎ町土釜
吉野川の支流貞光川の真ん中付近にあります。この付近だけ川幅が狭くなっていて急流となっています。
何段かの滝がありその下に滝壺が作られています。この滝壺の周囲の岩石は円柱形に削り取られていますので甌穴といっていいでしょう。
形は、甕ではなく釜に例えたようです。徳島県指定天然記念物に指定されています。
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愛媛県久万高原町八釜の甌穴群
仁淀川の支流黒川が小黒川と合流するところにあります。
くぼみの形をお釜に例え、それが主流に沿って8個並んでいることからこの名前がつけられています。
8個のかめ穴の一つ一つの直径が数mある大きなものです。各かめ穴との間は段差があり滝のようになっています。
国指定の特別天然記念物に指定されています。
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高知県室戸市室戸岬
室戸岬弘法大師行水の池近くの海岸で見つけたものです。小さな谷のような地形の所に丸いくぼみができています。
雨が降ったりすると水が流れそうな場所です。隆起の激しいところなので昔は波のあたるところだったようです。
水の流れか波の作用によってできたものかはっきりしません。
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大分県中津市奥耶馬渓猿飛千壺峡
大分県北部を流れる山国川の上流部にあります。このあたりでは川岸は切り立った崖になっています。
崖の岩肌や川底に無数の丸い穴を見ることができます。かめではなく壺に見立てた名前になっています。
猿飛甌穴群として国指定の天然記念物に指定されています
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大分県中津市奥耶馬渓魔林峡
猿飛甌穴群の1kmから2km下流にあります。間に普通の河原のような所が挟まれているので別の渓谷扱いになっています。
間の区間は横からの流れてきた土砂で埋め立てられているのだけなので、一連のものと見た方がいいでしょう。
こちらの方は川幅いっぱいの大きなかめ穴ができています。谷が深く削られているのと関係しているのでしょう。
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大分県豊後大野市原尻の滝
大分県の大野川の支流緒方川にあります。滝の上側の河原の岩の表面を見ると不規則に削られています。
中には丸くなりかかったものもあります。かめ穴のできはじめなのでしょう。
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宮崎県都城市関之尾公園
宮崎県大淀川の支流庄内川にあります。すぐ下流には関之尾滝があり、その平らになった上面にかめ穴が作られています。
水量が多くはっきりとしたものを見ることはできませんでしたが、岩の上面や溝状になったところなどにかめ穴と見られる曲面ができていました。
関之尾甌穴群として国の天然記念物に指定されています。
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熊本県小国町鍋釜滝
滝の名前は、丸い穴が鍋や釜のように見えることに由来するようです。穴の成因は甌穴とされています。
甌穴のように見えるものは滝本体よりも下流側にたくさんできています。
さらにすぐ下流には下条の滝があります。写真の甌穴の位置は下条の滝すぐ上といっていい位置にあったものです。
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熊本県山都町蘇陽峡
長崎鼻から蘇陽峡を五ヶ瀬川まで降りていき、橋の上から見えた河床に露出する岩盤にできていたものです。
直径が20cmと40cmくらいのものが2つあります。
岩石は阿蘇1火砕流堆積物になります。
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熊本県人吉市釜の奥戸
熊本県球磨川の支流鳩胸川が丘陵を横切るところに作られてます。地元では「カマノクド」と呼んでいます。
「クド」とは煮炊きに使うかまどのことです。京都近辺では「おくどさん」といういいかたをします。
ここのものはくぼみの一方が削り去られてなくなっているものが多く、そこがかまどの焚き口のように見え、そのように対比したようです。
熊本県指定天然記念物になっています。
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鹿児島県伊佐市曽木の滝
鹿児島県川内川が伊佐盆地から山間部に入るところにあります。
滝の下流側しか見ていませんが、切り立った水の流れに沿った岩の表面が深い円柱形に削られているところをたくさん見かけます。
空中写真で見ると上流側の河床には、丸い穴がたくさんあいているように見えます。
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鹿児島県種子島浜田海岸
種子島浜田海岸の砂浜に取り残された岩の表面にあったものです。丸いくぼみが見えます。深さはそれほどないように見えます。
波の作用でできたものか、元々岩の表面にあったかめ穴が残されたものなのかはっきりしません。
近くには千座(ちくら)の岩屋という中が大きな海食洞があります。
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鹿児島県伊仙町犬田府海岸
徳之島の犬田府海岸にあるメランジェ層を削ってできたかめ穴です。
大きな岩に海からの波があたるところに、いくつか丸い穴が開いているのがみられます。
波の作用によってできたものになります。
メランジェ層の説明に犬田府海岸と書かれているので使いましたが、それよりは「みやどばる」という地名も使われています。
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2.一般的な成因説明と疑問点
甌穴
(現地では「かめ穴」ではなくこのように書かれていることが多い)がある場所では、
そのできかたとして次のように書かれているものをたくさん見受けます。
「川底にできた小さなすき間に小石がはまり込み、水流によってその中を回転していくことで穴を丸く削り、穴は大きくなっていく」
これはかめ穴の成因として古くからいわれていることです。
これに対してはいろいろなところのかめ穴を見ている内にだんだん疑問に思うところが出てきました。
まず、あまり小石がはまり込んだかめ穴を見かけないということがあります。
確かに写真のいくつかには小石や砂利(砂利が削ると書かれているものもある)が入っているものがあります(釜の奥戸参照)。
これらは洪水が治まったときに川底に取り残されるのと同じようにかめ穴に残されたもののように見ます。
小石に関しては、補足的な説明として「中の小石は回転するにつれだんだん丸くなっていく」とも書かれています。
その典型的な例としては、
長崎県小値賀町大字斑島の「
斑島玉石甌穴」や
静岡県伊東市城ヶ崎海岸の「
かんのん浜ポットホール」
(名称をクリックすると写真のあるウェブページにいきます。いかなければ m○m)にあります。
これらは特殊な例外でしょう
(というより成因を検討し直す必要がありそうです)。
実際にはまり込んだ石を見ると角張っているのが普通です。これがたまたま取り残されたと考える理由です。
それに、石が丸くなると転がりやすくなり、摩擦が減るために周囲の岩を削りにくくなります。
先にあげたような丸い石が残されているのもこれと関係しているような感じがします。
2番目の疑問は、くぼみの一方が開いているものが多数見られるということです。現地の説明では「甌穴がつながった」とされています。
このようになってくると、小石が開いているところから抜け出して、なんども回転できなくなります。
説明からすると何回も回転することで、1回だけの時よりもたくさん削ることができ、かめ穴を大きくしていく事になるはずです。
逆に言えば、かめ穴がつながったことでそれ以上大きくなりにくくなります。実際には、つながってもかめ穴は大きくなっているように見受けます。
つながったところが小さな穴ではなく、大きく開いていることがその理由です。
場所によっては川岸がカーブするように削り去られ、かめ穴の壁面のように見えるもののできています。
3.成因についての考察
かめ穴の例には、南九州にあるものがたくさんあります。
その中でも、関之尾公園、曽木の滝、釜の奥戸のものは加久藤火砕流堆積物の溶結部を削って作られています。
原尻の滝も阿蘇4火砕流の溶結部です。他の地域のものでは厳美渓も溶結凝灰岩と解説されています。
ちゃんと調べたわけではありませんが、その他の地域でもいくつか溶結凝灰岩(火砕流堆積物の溶結部)ではないかと思われる場所があります。
それでは、溶結凝灰岩(火砕流堆積物の溶結部)に多い理由はどこにあるのでしょうか。
考えられることは、この岩石の上面が平に広く露出しやすいことです。
溶結凝灰岩(火砕流堆積物の溶結部)の上には、必ず相当な厚さの火砕流堆積物があります。この部分は固結していませんから、簡単に浸食されていきます。
いったんこの地層まで浸食されると、この部分は削り去られて溶結部の上面を露出させます。
上面は平らになっていますから、浸食された地面は平らになります。それに従って河床面は広くなります。
平らになれば広い範囲が見通せますから、同じ密度で分布していてもかめ穴は見つけやすくなります。
流れが緩くなりますから、浸食で削り去られるということも少なくなるでしょう。
でも、これは二次的な要因に過ぎません。
岩石の表面に注目してみます。岩石が水に浸かるところでは表面が溶けたようになり角が取れて丸くなっているものがほとんどです。
溶けているのではなく水流が紙やすりをかけて磨いていったようにも見えます。この岩石は溶けませんから、後者の現象が起こっているのでしょう。
岩石は非常にかたく壊れにくいのですが、削るようにすると簡単にすり減ってしまう性質があるようです。
このような性質があると水の流れの強く当たる所があればそこだけ削り去られてしまうでしょう。
滝ノ拝の岩石表面の奇妙な形もこのようにしてできたのでしょう。
水の力だけでこのように削られていくとは考えられません。他の要因があるのでしょうか。
右写真は、島根県奥出雲町にある鬼の舌震いのものです。真ん中にみえる岩に注目してください。
この岩も、表面を紙やすりをかけたようにへこんでいます。他に同じような特徴を持つところはいくつもあります。
ここを水が流れるのは大洪水が起こったときだけでしょう。濁流となっているだけではなく、土砂を大量に運んでいると考えられます。
このような形になったのは、泥水の中の砂粒などが岩石の表面を削っていったと想像できます。
ガラス表面に模様を描くときにサンドブラストという技法が使われることがあります。
模様をつけたくないところをテープなどでマスキングしておいてから、研磨材を風で吹き付けるという方法です。
研磨材のあたったところが削られすりガラス状になって模様が浮かび上がってきます。
川の流れの場合もこれと同じです。水流が岩肌にぶつかるところでは、運ばれてきた砂粒が研磨材の働きをして、岩肌を削っていくでしょう。
水流がカーブしているところでは遠心力で砂粒が岩肌に押しつけられて、岩肌をカーブするように削っていきます。
回転するような水流ができるところでは丸いくぼみができるでしょう。かめ穴の完成です。
かめ穴の成因として、その中で小石がぐるぐると回ってというより、水流に沿って運ばれてきた砂粒が岩肌を削っていった結果、
水流が渦巻くところでは丸い穴が開くと考えた方がいいようです。
このようにできたと考えてみると、かめ穴に丸い小石が入っていないことや、片側の開いたかめ穴が大きくなっていくというのが説明できますし、
周辺部で見られる、溝状の浸食や、川岸のカーブした浸食も説明がつきます。
八丈島のポットホールをみると、かめ穴というより滝壺のように見えます。水流の渦は垂直方向だけではなく垂直方向でもいいようです。
他の場所のいくつかも水流のようすとかを見ると滝壺が拡大したと考えた方がいいようなものも見受けられます。
2018.04.07
4.かめ穴のようでかめ穴でないもの
地面に丸い穴が開いていると、形から見る限りはそれはかめ穴といっていいでしょう。
実際には、かめ穴と呼ばれるものはそのでき方も考えていることが多いようです。
かめ穴が水流によってできるものとした場合、丸い穴の中にはかめ穴とはいえなくなるものができてきます。
ここには、丸い穴が開いているのだけれども、水流が削って作ったものではないものの例を紹介します。
象の足跡化石
大阪府富田林市錦織石川河床
丸い穴なのですが、指を差しているあたりが、膨らんだように削られているところがいくつかあることと、
その先の表面に土が押されてできたようなしわがみられることから、大きな動物が踏み込んでできた穴だと判断されました。
全体的な形や近くで象の化石が発見されていることから、象が作った足跡と考えられています。
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石灰岩の溶食
鹿児島県伊仙町(徳之島)みやどばる
石灰岩でできた海食台表面にできた穴です直径の割りには、10cmほどと深くはありません。
表面が平らな石灰岩に小さなへこみがあると、そこに満ちてきた海水が入り、潮が引いても残ります。
水は表面から空気中の二酸化炭素をとりこむので、表面ほどたくさん岩を溶かします。
そのためへこみはだんだん丸く広がっていきます。
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タフォニ
岩手県田野畑村ハイペ海岸
ハイペ海岸で見た奇妙な円形の穴です。左側の穴の縁がが右側の穴の方に押し出すように膨らんでいます。
かめ穴としたら回転する水流に逆らうように膨らんでいますから、これではうまく説明ができません。
成因ははっきりしないのですが、何となく形がタフォニに似ているようです。
海水がかかるようなところにある岩の表面では、浸みだした塩分が結晶化するときに岩石を破壊してできるとされています。
垂直な岩肌でよく見かけます。
−ブログ記事−
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2019.02.20